第5話一年に一度だけの

ゴブリンロードを倒してから一週間がたった。ゴブリンロードを倒したことで王位継承権争い圏外と目されていた第七皇子こと俺の株が上がった……わけではない。もちろん。ゴブリンロードを倒したのも結局はアリスということになっているし。というわけで俺の生活は元と変わらず、ボードゲームに明け暮れる日々を俺は過ごしていたのだった。前に見つかったたまり場とは違う、学校の体育館裏で俺たちは遊びに興じていた。

「七のスリーカード」

自信満々に俺は手札を二人に向かって開示する。スリーカードという役はポーカーで作れる役の中でかなり強い。

「ハハハハハハハハハハ」

不適な笑いをグレッグが放った。もしかして奴の手札はスリーカードよりも強いのか?まずい、ここで負けると俺はチップがなくなってしまう。

「ハハッハッハハハッハハ」

ゆっくりとグレッグの手札が捲れていく。

「フルハウスです!ライト王子」

フルハウスという役はスリーカードよりも強い。どうやら、この勝負に俺は完敗してしまったらしい。

「くそ!!」

内心涙目になりながら、俺は山積みになったチップをグレッグへと渡した。

「いよっしゃー。これで昨日とおとといの負けの分は帳消しだぜ!!!」

「逆に俺は昨日とおとといの分の勝ちを消したも同然だよ」

そんな時に階段からトントンとこちらへと向かってくる足音が聞こえた。アリスじゃない、アリスの足音はもっと重く鋭い。アインズ先生でもないか、アインズ先生の足音はこつんこつんとした規則正しいものだ。おれの感性はおそらく体重が軽い女子生徒のものであると言っていた。

「誰だ?」

足音の方向に問いかける。

すると、階段から現れたのは眼鏡をし、髪をポニーテールでまとめた女子生徒だった。髪は黒く、目ははっきりとした二重でかなり美人であることが伺える。真面目で聡明とした印象を俺たちに与えてくる。

「いきなり初対面の人に向けて誰だ?とは失礼ですね」

階段の上あたりで止まり、そこから俺たちに向けて語りかけてきた。

「この学校にいる人ならば私の顔を知らない人はなかなかいないはずなのですが……」

そういわれても少なくともおれはあんたの名前と顔は知らないのだ。グレッグとレゴリーとも顔を見合わせてみるが、二人とも知ってはいないようだ。

「俺はライトだ。ライト・ハインリッヒ」

一応俺も名乗っておく。

「さすがに、この国の第七皇子を知らないほど私は傲慢じゃない。世間での第七皇子の評判がすこぶる悪いとしてもね」

俺のことは知っているようだった。

「私はエリア。 一応この学校の生徒会長をやらせていただいているわ」

なるほど、だからあの発言ができたのか。

「確かに普通の生徒なら知っているだろう。だが、俺たち三人は学校にあんまり行ってないんだ。気分を害されたならすまないな」

レゴリーのその発言に対して女子生徒は目を細めてこちらを見つめた。

「あなたは……確かレゴリーという名前の生徒でしたね。ライト王子の同級生」

「へーレゴリーもわかるのか?じゃあ、俺は?」

もう一度彼女は目を細めると

「あなたはグレッグ。あなたとレゴリー、そしてライト王子は同級生のはずです」

ほー。すごいな、まさかレゴリーとグレッグの名前まで憶えているなんて。

「なんで分かったんだ?自慢じゃないが、俺たちが学校に来て授業に来た回数なんて片手で数えられるぐらいだぞ」

俺の言葉を聞くと彼女はすぐに自分の手を眼鏡の付け根にやって、そこをもむ。

「本当に自慢することじゃありませんね、ライト王子。授業にはちゃんと出てください。それと、私は生徒会長ですので、一応この学校にいる生徒と職員の顔と名前は把握しています」

「「「おー」」」

この学校の生徒はおよそ九百人。職員の数も入れたら千人ぐらいだろう。それだけの数の人の顔と名前を一致させるのはかなり難しいだろうに。

「すげえなあんた」

「どういたしまして」

そういうと、エリアはこの場所へと降りてきた。

「申し訳ないんだけど、この場所は祭りの準備で使いたいの。ポーカーだったら他の場所でやってくださる?」

「祭り?」

「ええ!!!!」

本気で驚いたのだろう。今までとは二トーンほど高い声に俺たちも少しびくっと反応する。

「この国で一番のお祭り、ハインリッヒ一世の生誕祭、ハインリッヒ記念祭を知らないの?」

ハインリッヒ記念祭か。

「そういえば、もうそろそろか。忘れていたな」

「確かにあと一か月半か」

なるほど、それで準備がもう始まっているんだな。

「ええ、そうなの。私は校内が祭りの準備一色の中、祭りを忘れていたあなたたちに少し引いてるわ。ええ」

じゃあいいか。俺たちも毎年楽しんでいる祭りだ。準備を邪魔するのは流石に申し訳ないと言わざるをえない。

「それなら、いいよ。この場所を存分と使ってくれ」

「ポーカーならほかの場所を使ってやればいいしな」

グレッグとレゴリーも同じ意見のようで三人でポーカーを片付け始めた。

「あら、ありがとう。授業は面白くないかもしれないけど、祭りの準備は楽しいわよ。あなたたちも手伝ってみたら?」

「気が向いたらな」

俺たちはそういって、別のたまり場を探し始めた。




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