雑談配信:ちょっと世界と交信します

「お、今日も雑談配信あるのか」


 あのリトライダンジョン攻略からおよそひと月。天乃月子嬢は定期的に雑談をするだけの配信を行っていた。


 正直、あのダンジョンのボスを倒したときの感動や衝撃と比べると、普通の雑談なんて聞いてもしょうがないと思っていたんだけど、異世界の何気ない話は面白いし、こっちの世界で驚いたこと、感じたこと、起こった出来事を緩く話してくれる時間は思ったよりずっと心地よかった。


 画面上で見れるのは月子嬢のちょっとした表情変化や身振り手振りくらいなので、こちらも家事をしたり調べものをしたり、食事をしたり、当たり前の生活をしながらBGM感覚で聞いていた。たまに共感することや面白いことがあれば、『シリウス』という名前でコメントを書き込む。たまに読んでもらえたりするととても嬉しい。


 今日もそんな雑談配信だろうと思っていたのだが――。


「……『ちょっと世界と交信します』……?」


 なんだろう、急に怪しげだ。ゆったりとした就寝前のリラックスタイムが、突然ホラー要素を持ち出した感じ。SNS上でも告知分に対して疑問符が飛び交っている。


「……まぁ、見てみるしかないか」


 配信時間が来るまで部屋の片づけや食事の調達、簡単な運動を行い時間を潰した。


「そろそろ始まるな」


 コーヒーを片手に買ってきたピザを食べながら配信を見守る。――と。開始時の緩やかな音楽と待機画面が流れ出す。始まったみたいだ。


『はい、異世界からこんばんはー。天乃月子ですー』


 雑談の雰囲気はいつもと変わらない。そこまでテンションを上げたりせず、緩やかに始まっていく。よかった、いつも通りだ。そう思った矢先。


『では早速、世界と交信していきたいと思いますのでね、ええ。ちょっと皆さん、少しお付き合いいただけると幸いです』


 全然いつも通りじゃなかった。


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『ど、どうした? なんか変な魔術でも掛けられたか?』


『変な新興宗教かも』


『いや、異世界だと割と普通なのかもしれない。世界間ギャップか?』

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 コメントの反応に気づいたのか、慌てて弁明を始める月子嬢。


『あっ、すみません。わたくしとしたことが。事前説明が全く足りていませんでしたね。簡単に敬意をご説明しますと……。ちょっと、『世界ちゃん』にお願いしたいことができまして。ただ『世界ちゃん』の連絡先、わたくし存じ上げないんですよね。なので、まぁ世界に発信されているこの『Mtube』を使って交信を試みようと、そういうわけなんです。以前にわたくしの配信見てくださってましたしね』


 …………あぁ、あの『魔法』を発動した時の話か。確かに、チャットログに『Miss World』という名前があって、いつかの雑談であれは魔法を授けてくれた『世界ちゃん』からのコメントだ、と言っていたけど……冗談だと思ってた。


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『ダメだ、聞いてもよくわからん』


『やりたいことは分かるんだが、行動と繋がってない』


『世界への呼びかけだから全世界に発信するって理屈として正しいのか?』

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『賛否両論、といった感じですね』


 どうやら彼女はコメントが読めていないようだ。


『でもまぁこれはわたくしのチャンネルですので、好き勝手やらせていただきます。ちなみに『世界ちゃん』からお返事が来るまで定期的に続けますので、よろしくお願いしますね。――では早速』


 こほん、と咳払いをして、月子嬢は両手を広げた。


『世界ちゃーん。わたくしです。天乃月子でーす。ちょっとお話……というか、お願いしたいことがありまして、この配信をご覧になっていたら、コメントに書き込みをお願いしますー!』


 わざわざ配信用のBGMを切り、声にエコーまで書ける徹底っぷりだ。……いやホント、どこまで本気なんだろうな?


『さて、このメッセージ、定期的に発信していきますからね。まぁ世界ちゃんもね、多分忙しいと思うんで、中々リアルタイムで見てはくれないと思うんですが――おや?』


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Miss World:何か用か?

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 ――突然、目立つ赤色のコメントが流れてきた。おいおい。


『なんと! 世界ちゃん意外と暇人でした!』


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『早くない!?』


『世界ってそんな簡単に連絡取れていいもんじゃないだろ。古い友人か』


『これスタッフの自作自演、っていうかそういう企画?』

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『あ、大変です。自作自演を疑われていますので、さっそくお話進めていきますね。ちょっとメッセージ流れないように、皆さま少しコメントの書き込みを控えていただけると幸いです。では――。改めまして世界ちゃん。状況の説明からさせていただきますね。実は、まだ内緒なんですが、わたくしリアルライブを開催しようと思っていまして』


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Miss World:ほう

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「リアルライブ!? え!? ほんとに初めての情報じゃん! ていうか内緒って……」


 思わず声が出た。コメントが止められていることがもどかしい、突っ込みどころが多すぎる。


『ただ、今のこのわたくしの身体だと、ライブをするにはちょっと問題がありまして。そのために『ライブ用の肉体』を準備してるんですね。』


 なんとなく雑談配信を見ていても、挙動やレスポンスに違和感を感じる時があるので、おそらくそのあたりが課題なんだろう。雑談と違い、音に合わせなくてはならない歌や踊りはタイミングがシビアだ。


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Miss World:それで?

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 『世界ちゃん』、思ったよりフランクだな。魔法を使いたいときに呼びかける、あらゆるルールの管理者、みたいなイメージだったんだけど、こんな気軽に話せていいのか。神様的存在だと思ってた。


『ライブ用の肉体の準備までは目途が付いたんですが、一つ問題がありまして……その身体、めちゃくちゃ魔力を消費するんですよ。わたくしだけでは全然維持できないくらい』


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Miss World:なるほど

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 ちゃんと相槌打ってくれるの優しいな。


『で、ここからが相談なんですが……『Magic Chat』あるじゃないですか。アレはこのMtubeのコメントに『本人の意志で配信者に魔力を供給する』っていう機能を組み込んでますが、それを『ライブに来てくださったお客さんの声援』にも組み込んでもらうことは可能でしょうか? もちろん魔力供給をするか否かは本人の意志で決められる形で』


 ……なるほど。月子嬢がライブをするには、魔力の供給が必要。『魔法』によって配信上での魔力供給手段は構築されたが、リアルライブにおいてその仕組みはないから『ライブに来てくれる熱量の高いお客さん』から、魔力がもらえないのか。で、それを解決したい、っていうのが相談内容だな。


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Miss World:仕組みとしては可能だ

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『おおー! いけるんですね! ぜひお願いしたいです。この仕組みが導入されれば、世界はまた一つ良い方向に変わりますよ、きっと。何せ、魔力が足らなくて『歌唱魔術が使えない』人たちが、応援を得られれば、魔力が多い人たちと同じ条件になるんですから。――『魔力』という、絶対的才能を、覆しうる要素になります』


 確かに。今の世の中は『魔力』という才能や種族特性の占めるウェイトがあまりに大きい。魔術師は言うまでもなく、戦士であっても魔力が少ないとそれだけで不利になる。アイドルや歌手のような芸術方面でも同様で、声や動きに魔力を乗せられるかどうかで、心を揺さぶれる度合いが変わってきてしまう。


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Miss World:了解した。ただし発動方法は限定する。軍事利用の危険がある

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『軍事……そうか。確かに。例えば、魔力を持った支援者を無数に集めて、ひたすら応援させれば魔力の切れない最強の軍隊が出来上がってしまう、ってことですね……』


 確かに。個人戦闘でも魔力を声援一つで自由に渡せると戦略的にも全然変わってきてしまう。ましてや軍隊などに対しては、使い方次第で非戦闘員を魔力タンクとして活用するようなことが横行しかねない。世界がむしろ悪い方向に変わってしまう。


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Miss World:ルールの変更はリスクを伴う。あくまで対象は『配信』のまま


Miss World:既存の『Magic Chat』に音声入力の仕組みを設ける


Miss World:魔力の乗った声を入力すれば『Magic Chat』へと変換される

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『――具体的な方法は、検討の余地がありますが……。例えば、ライブ会場にマイクを複数設置し、そこから魔力の乗った音声を取り込めれば、通常の『Magic Chat』と同じ流れで、魔力が供給される、ということ、でしょうか?』


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Miss World:肯定だ

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 なるほど。確かにこの形だったら『Magic Chat』の仕様変更程度で済む……のか? 入力の仕組みは必要になるだろうけど。


『わかりました。ありがとうございます。――これで、問題は解決しそうです。あとはわたくしの優秀なスタッフたちと一緒に考えれば、素晴らしいライブになること間違いなしですね』


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Miss World:楽しみにしている

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『さて、皆さま、お待たせいたしました! いやー、ちょっとね、ここ数分間の記憶がないんですが、改めて雑談、始めていければと思います!』


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『情報量が多すぎて追いつかない』


『突っ込みどころも多すぎる』


『ていうか何しれっとなかったことにしてるんだ』


『ライブあるの!? いつ!?』

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 そんな大量に流れるコメントを完全無視しながら、月子嬢はいつも通りの雑談を再開していった。


 ――色々あったけど、ライブ、楽しみだな。

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