第21話:歌
「色々とお世話になりました」
私はリクニスさんに深々と頭を下げる。
「いや、こちらこそありがとう。ダンジョンの利用者増えたし、広告お願いした甲斐があったよ」
一階のボス打倒から数日。コペルフェリアに戻るということで、動画の撮影などこの町でやることを急ぎこなし、これから鉄道に乗って帰るところだ。まぁ、帰ると言っても私にとってはこの町の方が長く居たんだけど。
「こっちとしても実績が積めて良かったです。登録者も増えましたしねぇ。これからも何卒御贔屓に」
「はいはい、カイルさんは忙しくてこれないけど、また何かあったら頼むってさ。じゃあ、ツキノちゃん、ソルさん、お元気で。何かあったら連絡するねー。あと動画、これからも楽しみにしてます」
「はい! ぜひまた!」
手を振り、私たちは鉄道に乗り込んだ。名残惜しいが、そう遠い距離でもない。またすぐに来られるだろう。
数時間で「色々とお世話になりました」
私はリクニスさんに深々と頭を下げる。
「いや、こちらこそありがとう。ダンジョンの利用者増えたし、広告お願いした甲斐があったよ」
一階のボス打倒から数日。コペルフェリアに戻るということで、動画の撮影などこの町でやることを急ぎこなし、これから鉄道に乗って帰るところだ。まぁ、帰ると言っても私にとってはこの町の方が長く居たんだけど。
「こっちとしても実績が積めて良かったです。登録者も増えましたしねぇ。これからも何卒御贔屓に」
「はいはい、カイルさんは忙しくてこれないけど、また何かあったら頼むってさ。じゃあ、ツキノちゃん、ソルさん、お元気で。何かあったら連絡するねー。あと動画、これからも楽しみにしてます」
「はい! ぜひまた!」
手を振り、私たちは鉄道に乗り込んだ。名残惜しいが、そう遠い距離でもない。またすぐに来られるだろう。
戻る車中で、ソルさんとこれからの話をする。
「まぁ移動は結構疲れるんでね、今日は戻ったらゆっくり休んでもらって……で、これからなんですが、どうします? 何か、やりたいことありますかぁ?」
「ここしばらく考えたり、Mtube見たりしてたんですけど、やっぱり『歌』ですかね。私がやりたいのは」
動画サイトにはもちろんたくさんの歌があった。意外というか、ある意味当然というか、ファンタジー世界にありがちな民族音楽やオペラなどはほとんど見当たらず、元の時代とそう変わらない、様々なジャンルの楽曲があった。さすがに、録音や編集技術などは向こうに比べるとだいぶ劣るのだろうが、それでも懐かしさを覚えるような曲たちが多数あり、中には『異世界の曲』として、私が聞いたことのある曲を『歌ってみた』ものさえあった。
「歌、ですかぁ。なるほど。失礼ですが、歌のご経験は?」
「結構好きで歌ってはいましたけど、特別な訓練を受けていた、とかではないですね……やっぱり難しいでしょうか」
小さい頃から、色々な楽器を触ったり唄うことは好きだった。唯一といっていい趣味だったかもしれない。入院してからは大声で歌うことができなくて悔しかったけれど。その記憶は、染みついている。
「いいえ、やりたいなら、やりましょ。ただ一応訓練もできたほうが良いでしょうから、歌を教えてくれる人と、楽曲を準備してくれる人、それぞれに連絡を取りましょうかね。あとは……」
ソルさんは少し考えるような仕草をし、こちらを見た。
「やっぱ、歌の醍醐味って、ライブですよねぇ? どうします? 踊りも、やります?」
「お、踊りっ……!」
確かに、Vtuberさんのライブと言えば、踊りが結構挟まれることが多い。Vsingerとして、歌に集中するタイプのパフォーマンスももちろんあるが……。
「私の憧れたVtuberさん達は、本当に素敵なダンスを見せてくれていました。ダンスに自信は……正直全くないですが、でも、私がお客さんに見せたい姿は――」
美しい舞台で華麗にダンスをしながら歌う、まるでアイドルのようなあの姿、だ。
「オッケィです! じゃあ、歌とダンスレッスン、いれましょう! あと楽曲作って、いずれはライブできるような感じで、準備、段取り整えて――やっていきましょうか!」
「――はいっ! お願いします!」
◆◇◆◇◆◇
それから町へ戻り、身体を休めながら歌や踊りを自己流で勉強して過ごした。その数日後、私とソルさんは『魔導技術研究所』の中にあるスタジオにいた。
「歌とダンスのレッスンって、ここでやるんですか?」
「ええ。だって、生身でやってもしょうがないでしょ?」
「――――! 確かに! そうか、ライブって『天原月乃』じゃなくて『天乃月子』でやらないといけないんでしたね」
本来のVtuberさんであれば、Virtualの身体は本人の肉体と重なって存在し、動作や声はそのまま反映される。しかし私の場合は、本体とは別の肉体を創り出しているのだから、そちらで練習してみないといけないだろう。
「えぇ。あくまでMC体って戦闘用で、歌や踊りを想定はしてないですからねぇ。まだ全然実験段階だし。で、その辺のデータを収集する意味もあって、この場所でレッスンをやってほしいんです。レグルスさんにも来てもらって、モニタリングしながらやろうかなと」
私とソルさんが話していると、ちょうど二人の人物がスタジオの中に入ってきた。一人は以前にもあった、青い髪の研究者、レグルスさん。そしてもう一人は――。
「どうもこんにちは! 今日からツキノさん? ツキコさん? のレッスンさせてもらうエルメスでーす! よろしくね!」
空色の髪をした、結構ノリの軽めな人が来た。でも、なんというか、声の通りが凄い。発声もめちゃくちゃキレイでハキハキしている。この人が、先生?
「あ、どうも、初めまして。今は天原月乃で、これから天乃月子になります、よろしくお願いします。レグルスさんも、わざわざありがとうございます」
「いやいや、いい実験になりそうだからねぇ。ツキコくんの歌も楽しみにしているよ」
相変わらず独特な口調のレグルスさんだった。エルメスさんはこちらを見た後、頷いた。
「一応、Vtuberってやつの概要は聞いてるんだけど……まぁぶっちゃけ、よくわかんなかったからさ、実際に見せてもらえると助かるな」
「……わかりました。じゃあ、レグルスさん、準備して大丈夫ですか?」
「ちょっと待ってねー、うん、オッケーです、ツキノくんそこの椅子、座ってください」
レグルスさんに促されるまま、私は椅子に座った。一瞬、意識が途切れ、次の瞬間には『天乃月子』として立っている。
「異世界からこんにちはー。天乃月子です」
一応前口上と共に口を開き、手を振った。さすがに配信のテンションにはなれなかったが。
「おお! へぇーなるほどなぁ。さすがに生身とは違うね。声も……ちょっと違和感があるかな。動きもなんかちょっとぎこちなく見える。なるほどなぁ。よし、じゃあさっそく、ちょっと歌ってみようか。いきなり踊るのは難しいだろうけど、軽くリズム取りながら」
「歌、ですか? あの、何を歌えば」
「何でもいいよー、あなたの故郷の歌でも、こっちで流行ってる歌でも。『歌』なら私は何でも理解できるから」
「わかりました。じゃあ、故郷の歌を」
――星に願いを懸ける、優しい歌を。
◆◇◆◇◆◇
「うん。なるほどなるほど! 思ったよりは、全然上手だね。リズム感も悪くない。でも――この体だと、ライブは無理だね!」
エルメスさんはあっさりとした口調でそう言い切った。――マジ?
==========================
大変お待たせいたしました。
少し休憩がてら書いていた別のお話が完結したので戻ってきました。
よろしければ引き続きまたよろしくお願いします。
2024/10/23 里予木一
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