幕間:夢

 人生を道に例える人がいる。それは、間違ってはいないけど、十分ではないと思う。


 人生という道は多層構造になっていて、要は、段差があるのだ。高速道路をイメージしてほしい。下の道と決してすれ違うことはない。でも同じ方を向いて進んでいく。


 ちなみに高速道路なんて言ったが、人生はあんなに頑強じゃない。ずっと細くて、でこぼこで、たまに穴が開いていたり崩れたりする。しかも下の道はさら下部に地下道があり、想像もつかないくらい深く、暗い。


 私は前世で、ごく一般的な地上の道を歩いていた。空に掛かる高架は透明で、楽しそうに踏みしめて歩く人々を眩しく見ていたけど、別にこの地上の道も悪くはないと思っていた。


 ――そんな時、突然、目の前の道が崩れた。私はしがみつく余裕もなく、真っ逆さまに転落した。病気という名の大穴は最下層まで続いていて、私の道はそこで行き止まりになっていた。


 下から上に登る方法がないわけではない。はしごやロープ、時には階段を見つける人もいる。でも大抵は、掴んだロープが切れて下に落ちたり、いくら探しても見つからなかったりする。それどころか、ぼんやり座り込んでいると、道はどんどん崩れてなくなっていくのだ。――改めて考えると、苦しい道のりだと思う。


 私は最下層でしゃがみこみ、ぼんやりと空を見上げていた。周囲は暗くても、透明な上の道は良く見える。楽しそうにしている人々の他、下を見下ろして笑う人もたくさんいた。上を見上げて唇を噛むしかない自分がひどくみじめで、涙が零れた。


 ――そんな時『Vtuber』という存在を知った。


 彼らのうち何人かは、『上へと昇るエレベーターを見つけた人』だった。様々な理由で持っていた夢を叶えられず、暗い道を歩いていた人たち。


 羨ましくないと言えばウソになる。でも、先へ続く道すらない私からすれば、羨望よりも、希望があった。もしかしたら、私みたいに病気で衰えて、動くこともままならない身体でも、かわいらしく笑って話すことができるかもしれない。――人を、楽しませることができるかもしれない。


 残念ながらその夢は叶うことなく、私の道は途切れてしまったけれど。


 新しく始まったこの道で、私はそんな世界を創りたいと思う。


 私がVtuberになる。それは一つの過程に過ぎない。


 例えば翼を持たなくても空を飛びたい人が。腕をなくしたけど楽器を奏でたい人が。脚を失ったけど、旅に出かけたい人が。――病で、ボロボロの体でも、誰かに笑顔を届けたい人が。


 そんな人たちが、なりたい自分で生きて行けるように。


 私はその仕組みを、この世界で創りたいのだ。


 もちろん、世界中の人たちを救うことはできない。このやり方で救える人はきっと、暗い道を歩いている、ほんのわずかな人たちだけだ。でも。


 私のように、希望を抱いて世界を変える人が現れたら。


 世界は少しずつ、良くなっていくかもしれない。


 だから私は、全力で進むよ。


 どうか、その姿を見ていてください。そして、良かったら、笑ってください。


 それが、私の力になるから。

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