第20話:Super Chat
Hello, world!
聞こえていますか?
世界の危機なんかではないけれど。
命にかかわることでもないけれど。
でもわたくしにとっては大切な
だからどうか、このどうしようもない状況を、打開する力をください。
◆◇◆◇◆◇
――力を願うもの。あなたの声は届いた。
「えっ……あれ、ここは?」
ミノタウロスに掴まれていた身体はいつの間にか解放され、現実とも夢ともいえない謎の空間でわたくしは漂っていた。
「……カメラがないのが残念ですが……声が届いた、ということはわたくしに力を与えてくれるということ?」
――残念ながら、そのような自分本位な願いは、届かない。
「はぁ? なんですかそれ。奇跡なのに。魔法なのに、人を選ぶんですか?」
――魔法はこの『世界』を救うための力。今のあなたの願いは、自分の力で達成すべきもの。あなたは時空を超えてきた存在ゆえ、呼びかけには答えたが、魔法に至る価値はない。
世界からの通告。わたくしの願いは、魔法に至るような価値がないと。世界を救うものではない、自分のための願いだと。……なるほど。『世界』と言っても、別に全能ではないということだ。――だって、わたくしの意図を読み取れていない。
「はぁ……勘違いですよ。世界さん。わたくし別に、この魔物を倒してくれとか、そのための力をくれ、って言ってるわけじゃありません」
――ほう。では何を望む?
「わたくしはこの世界で『Vtuber』になりたい。その道筋を作りたいのです。そうすれば――きっとこの世界は、少しだけ幸せになるから」
ソルさんの言葉を繰り返す。――そうだ。Vtuberになることはただの過程。わたくしの夢は最初から『みんなを笑顔にできる存在になりたい』のだから。
――よくわからない。あなたは今、どうなりたい?
「どうにもならなくてよいです。わたくし自身が変わる必要は何もない。それは、自分でやりますから。ただ――今、この瞬間も、わたくしを応援している彼らの想いが、力となって届くような。そんな仕組みを世界に創ってください」
――自分を変えるのではなく、世界を変えろ、と?
「はい。そうすれば、きっと世界は少し良くなる。それに――みんなの声が力になれば、あんな牛なんて敵じゃないです。だって、数百人がわたくしを応援しているんですよ? そんなの――無敵じゃないですか」
――応援を、力に? ……範囲が広すぎる。無理だ。
「あら世界ちゃん。応用力足りませんね。いいでしょう。わたくしが一つ例を教えてあげます。元の世界で配信者を応援するための手段。それは――Super Chat」
――なんだ、それは。
「元の世界では、チャット――配信中のメッセージと合わせて『力』を送るんです。もちろんこの世界みたいに戦う機会なんてないので、生きる上で必要な別の『力』ですけどね」
あえて、具体的な言及は避ける。伝えたかったのはそこじゃない。
――なるほど。配信中のメッセージに力を載せる。既存のシステムに介入することにはなるが……不可能ではない。だが、それこそ技術者たちが行うべきことでは? 今この時に『魔法』として実現する必要性はどこにある?
「そんなもの、決まってるでしょう。――わたくしの、最高に面白い配信が、見られるのは今しかないから」
――――――は?
「さ、結果の出ていないことを議論するつもりはありません。取りあえずやってみてください。今日この場で『魔法』として仕組みが作られることによって、間違いなく世界は良くなりますよ」
――根拠は?
「わたくしの配信と、視聴者を見てくれればわかります。――さぁ、みんな待ちくたびれていますよ。水飲み休憩はここまで。世界ちゃん、スタンバイ、良いですか?」
――いいだろう。やってみよう。だが――その言葉が嘘ならば。
「その時は命でもなんでも、持っていってください。わたくしは精一杯頑張るだけですから。――じゃあ、世界ちゃんからのスパチャ、お待ちしてますので。面白かったら高評価とチャンネル登録、よろしくお願いしますねー」
わたくしの言葉が世界に溶け、曖昧だった意識がはっきりする。腹部が、締め付けられる感覚。戻ってきた。――さぁ、大逆転の始まりだ。
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