第17話:振り返り
「えっ……ど、どうなりました!? 石化? 生還?」
「ギリギリまで見てた感じだと一応脱出できてるんじゃないすかねー」
ソルさんの発言でほっと胸をなでおろす。いや、死亡と脱出で何が違うのかはわからないけど、多分脱出したほうがいいことがあるだろう、おそらく。
「なんか……後半色々怒涛で、情報を整理したいんですけど……リクニスさんとかに聞いてみたら良いんですかね」
あの大きなゴブリンを倒してから、罠にかかり巨大なトカゲに襲われてギリギリ脱出はしたものの、あのトカゲを倒すなんて簡単にはできそうにない。配信では取りあえず一階突破は目指したいと思っていたんだけど、アレは倒さなきゃならないのだろうか。
「そうっすね、それがわかりやすいかな……冒険者としての成長が目標だったら自分で試行錯誤するのが良いとは思うんですが、ツキノさんとしては別に冒険者、目指してないですよね?」
「うーん、そうですね。私がやりたいのは配信者なので、冒険者になる気はないですね……あくまでこれは案件というか、企画としてやっている感じです。もちろん、手を抜く気はありませんが」
「ですよね。じゃあ試行錯誤を見せても仕方ないんで、サクっと話を聞きましょっか。……あ。でも、ただ話聞くのは、もったいないっすね」
「え? あぁ、つまり、そういうことですか」
「ええ。コラボ配信二回目、お願いしてみますか」
「振り返り配信、ってやつですね。動画見ながらコメントをもらうの、面白いかも」
「オッケーっす。じゃあ、連絡とってみますねぇ。予定合えば明日の夜、行きましょう」
◆◇◆◇◆◇
「こんばんはー! 異世界からこんにちは! 天乃月子です! 本日は急遽再コラボ! ということで、リクニスさんに来ていただいていますー!」
「はーいこんばんはーリクニスですー。いや、昨日お疲れ様、すごかったねツキコちゃん」
「めっちゃくちゃ大変でしたよ。なんですかあのトカゲ。石になるとかいう激レア体験しちゃいました」
「アレねー……。まぁ詳しくは、実際に振り返りながら解説しましょうか」
「はい、お願いします! あ、これからリトライダンジョン挑戦しよう! と思っていて、自分で色々試行錯誤したい、って方は今日の配信見ない方が良いかもしれません。たぶん結構ネタバレ的な内容お話することになると思うので! そういう方々は、ぜひ自分でクリアした後に見てみてもらえればとー」
ちなみに今日の配信はまたしてもリトライダンジョンのテストルームをお借りしている。いや、この町だと『天乃月子』になれる場所が限られるからね。
「さて、じゃあこれから振り返りをやっていくわけですが……あ、その前にですね。なんと、私のチャンネル登録者が、五百人を突破しましたー! 皆さんありがとうございますー!」
『おめでとうー!』
『五百人がこれ見てるって考えるとすごいな』
『こういう初心者向け動画ってなかったから助かってる』
コメント欄も温かい。実際リアルタイムで見てくれている人は百人と少しだが、冒険者という過酷な仕事をしてる人たちが視聴者の大半と考えると凄いことだと思う。
「五百人かぁ、おめでとう! ……凄いね。大体このメルトの街で冒険者資格を持っている人が五千人くらいいるから、十分の一は見てるわけだ。もちろん、他の都市の人もいるだろうから、実際はもっと少ないと思うけど」
「五千人!? この町の冒険者、そんなにいるんですか!?」
リクニスさんの言葉に思わず大声を上げる。せいぜい一、二千人くらいだと思っていた。
「そうそう。この町はそもそも冒険者志望が多いし、軍隊的な役割も兼ねてるからね。まぁ、その辺はまた機会があったらということで、始めましょうか」
「あっ、そうですね。では、画面の中央に前回の冒険の様子を映させてもらって……」
配信画面に前回のアーカイブを大きく表示させ、その左右にわたくしとリクニスさんが立つような形を取る。ちなみに私たちが見るためのディスプレイは正面側にあるので、カメラに背中を向けないよう配慮されている。うん。Vtuberの配信画面っぽくて良いね。
「では早速スタートー! はい、まず武器を手に取り、早々に蜘蛛との戦闘ですね。ちょっと戦闘シーンまで飛ばしましょう。はい……ここはサクっと倒しました」
アーカイブなので好きなところまで進めることが可能なのだ。便利だね。
「うんうん。動きだいぶいい。お。レベルアップだね」
「そう! このダンジョン、レベルがあるんですね。個人的には凄くわかりやすくて助かるし、レベルが上がるとなんか疲れとかも回復しますよね」
実際、戦闘のたびにかなり消耗していたのだが、レベルが上がると元気になっていた。精神はともかく肉体的な疲労は解消されるらしい。
「そうそう。これ実は、怪我とか魔力も回復するんだ。実戦だと、戦闘後って疲労困憊でなかなか連戦なんてできないもんだけど、勝利の経験や反省事項を得たらすぐに次に活かしたほうが伸びるからね。どんどん進んで経験を積めるようにこうなってる」
『なるほどなぁ』
『確かに強い魔物倒した後ってクタクタになる』
『反省点をすぐ次の実戦で試せるのはいいな』
なるほど。コメントの冒険者さんたちも好意的に受け入れている。良い宣伝になっているのではないだろうか。
「で、私も元気になったので次の部屋へ向かったわけですが……ここ。なんといきなりゴブリン三匹というピンチに襲われました」
「見てた見てた。これねぇ、魔物のレベルアップと、複数相手に対する戦闘経験を積ませる場所なんだけど……ソロだと一気に難易度跳ねあがるんだよね。パーティだとさらに魔物増えるけど役割決めて連携さえ取れれば何とでもなる。ゴブリンそんな強くないし。ただ一人だとね。囲まれたら負けるから工夫がいる」
確かに。例えば前衛と後衛がいるなら、前衛に攻撃を集中させ、その間後衛がゴブリンを倒していけば良い。囮役と攻撃役がいるだけでだいぶ楽に戦えるだろう。だが一人だとそうはいかない。
「そう。でもわたくしは勝ちましたからね。漫画で読んだ戦術がばっちりハマりました」
「いやホント凄かった。そっちの世界の学生ってみんなそんなこと知ってんの? あとさ、ここ。通路に引き込んだあと、石突で攻撃してたでしょ。アレも良かった。たぶん刃の方でやってたらゴブリン貫通して槍動かなくなってたよ」
「え、マジですか。コワ。偶然とはいえ、わたくし天才的ですねこの時」
「これはお世辞じゃなくね。普通駆け出し冒険者はパニックになってうまく戦えないよこんなの。すごく冷静だったけど。なんかコツとかある?」
しばし、考えてみる。確かに自分でも驚くくらい冷静に対処できていた。理由があるとするならば――。
「やっぱり、見てる人がいたから、だと思います。応援してくれてるってのもありますけど『ここでかっこ悪いところ見せられない!』って思ったんですよね。あとは……『ここで負けたら配信つまらない!』っていうのももちろんありましたけど」
わたくしを応援してくれている人たちはきっと、特訓の成果を見たかったはずだ。だったらあのゴブリンは倒さないと。数が多かろうが、既に経験済みの障害である。ならば、突破できなくては盛り上がらない。むしろ、複数いたからこそ、特訓と異なる戦いを見せられたのだから、結果的にはラッキーだったと思う。
「なるほどねぇ。この辺は冒険者には持てない感覚だな。仲間の視線とかはあるけど、冒険自体の面白さなんて気にしないだろうし」
「まぁ。そうですかね。でも――わたくしの考えですが『一番の観客は、自分自身』なので。自らに誇れる行動を選ぶのが、大事かなと」
「いいじゃん。名言だよ」
「格好いいこと言いたい年頃なんです」
「見てるみんなも、心に刻んで置くといい。大事だよ。常に自分を見てるのは、自分だけだからね」
寂しそうな笑み。リクニスさんも、過去に色々あったんだろうか。そんなことを思いながら、わたくしはアーカイブを先に進める。
過去の自分を見つめながら。
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