第10話 ③
「成る程…僕達の国にある魔道機に良く似ていますが、普及率は恐らくあなた方の世界の方が上ですね」
「え!?この世界にも洗濯機とか掃除機とかあるの!?」
国を見た限り、機械のようなものは見かけなかったから自分達の世界に似た機器があると聞いてイチカは驚きの声を上げた。
「あるにはありますが、動力は魔石という、魔力の込められた石が必ず必要になりますし、物によっては形も大きさも調整しなければならないので、一般的に普及するのはとても難しいんです」
「そっか、あたし達の世界じゃ電波塔とか電柱とかあるから、それのお陰で電気は普及出来てるもんね」
「魔石を使わず、電気のみで生活を成り立たせるのは素直に凄いと思います」
「エジソンやニコラ・テスラといった偉大な科学者達のお陰だよ」
焼き魚を堪能しながら、しみじみと呟くイチカ。
「そういえば店主の方。ここ最近、周辺で魔物を見かけた事はありますか?」
「魔物かぁ。幸いまだ誰も見て無いけど、この村に立ち寄った商人から魔物をちょくちょく見かけるようになったって聞いたから正直心配なんだよなぁ」
「今までは無かったと?」
「領主様が領地周辺の魔物を退治してくれるお陰で被害はあまり出なかったんだ。けど、瘴気だっけか?あれのせいで領主の街も大変らしいから、きっと魔物の処理が追いついてないんだろうなぁ……」
思ったよりも事態が深刻化してる事に、三人は息を呑んだ。
「あれ?見かけない人がいるよ!」
「本当だ。もしかして旅人さん?」
「見て!デッカいトカゲいるよ!」
「本当だ!こんなでっけぇトカゲ初めて見た!」
「羽根も生えてる!なんかカッコいい!」
「トカゲじゃなくてドラゴンなんだけど!?」
「喋ったぁ!!!!」
突然浜辺で遊んでいた子供達がイツキ達に気がついて、興味深々といった感じで近づいてきた。
目を輝かせながら近づいてくるちびっ子軍団に、イツキはどう対応すれば良いのか分からずあわあわし、トカゲトカゲと指されたイチカは抗議の声を上げた。
「お姉ちゃん達は何処からきたの?」
「お姉ちゃん……もしかして僕、女の子と勘違いされてる……?」
小柄で、華奢で、容姿が整っているせいでパッと見は女の子にしか見えないアリアン。
女の子と勘違いされて、軽くショックを受けたようだった。
「こらこらお前ら、お客さんを困らせるんじゃない」
「はーい!」
魚屋の店主に軽く注意されて、子供達は素直に返事した。
「悪いね。子供達はとても好奇心が強いんだ」
「あぁ、いえ…気にしないでください。好奇心があるのは良いことだと思います」
イツキが慌ててフォローする。
「あんた達はこれからどうするんだい?」
「一泊したら、領主の街に行こうと思ってます」
「おうそうか。ここからだと一週間は掛かるから魔物には気をつけな」
「一週間だなんて遠くない!?何か移動手段ないんですか!?」
「ここいらじゃ馬車しかないけど、魔物が出没するようになってから馬車も見なくなったからなぁ」
つまりは危険地帯の中を完全徒歩で向かわなきゃいけないという事だ。
インドア派のイツキにとってはなかなかキツイ旅になりそうな予感がして、肩を落とした。
「ねーねートカゲさん。どうしてトカゲさんなのにお喋り出来るの?」
「ドラゴンだからよ」
「お歌も歌える?」
「歌なんてお手のものよ!」
「わー!何か歌って歌って!」
子供達が期待の眼差しでイチカを見つめる。
イチカはこの浜辺に良いテーマが無いか少し考えた後に口を開いた。
「〽︎むかし むかし 浦島が
助けた亀に 連れられて
竜宮城へ 来てみれば
絵にも描けない 美しさ♪」
本当はホットでリミットな歌にしようかと考えたが、流石に自重した。ので、親しみやすさを重視して祖国の童謡にシフトチェンジした。
チラリと反応みれば、歌に続きはないのかと期待に目を輝かせている。
「〽︎乙姫様の ご馳走に
鯛や平目の 舞踊り
ただ珍しく 面白く
月日のたつのも 夢の中♪」
イチカの美しい歌声と珍しい歌につられて、大人や老人までも集まりだした。
「〽︎遊びにあきて 気がついて
お暇乞いも そこそこに
帰る途中の 楽しみは
土産に貰った 玉手箱
帰って見れば こは如何に
元いた家も 村もなく
路に行きあう 人々は
顔も知らない 者ばかり
心細さに 蓋とれば
開けて悔しき 玉手箱
中からぱっと 白煙
たちまち太郎は おじいさん♪」
イチカの歌が終わった。
周りからの反応は無い。
やっぱりこの曲はダメだったのかと少しだけ落ち込んだ時だった。突然拍手が上がったのだ。
「凄い!今の曲なんて言うの!?」
「今のお歌、とっても素敵だった!」
「なんていう歌なの?」
子供達は大興奮でイチカに詰め寄り、大人達も聞きなれない旋律に心を奪われたようだった。
「え……えっと……『浦島太郎』っていうあたしの国の童話だよ……」
イチカがタジタジしながら説明すると、子供達は更に目を輝かせた。
「もっと歌って歌って!」
「他にも何か歌って!」
「!それじゃあ、次は『桃太郎』を歌うね!」
イチカは内心でよっしゃ!とガッツポーズしながら、せがまれるままに童謡を歌い続けたのだった。
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