第9話 ②

「お待たせしました。なんとか場所を知ることができました」


二階へ戻ってきたアリアンはイツキとイチカにそう伝える。


「おかえり。あたし達今何処にいるの?」

「えぇ…思ったよりも、本来の目的地から大分離れてしまいました」


部屋の隅に置いてあるテーブルに集まり、地図を広げてトン、と指先を置く。


「ここが僕達が本来目指した場所。そしてここが、僕達が今いる場所です」

「うわ……かなり離れてるじゃん……」

「ここからさらに南に行けば領主が住む街があるようです。ここも一応瘴気が発生しているようですし、ついでに浄化もしておきましょう」

「浄化が済めば、魔物はいなくなる?」

「残念ながら魔物は既にいる存在なので浄化した所で消えはしません。ですが、瘴気を浴びた魔物はかなり凶暴化し、普段は苦戦するはずのない小さな魔物相手に大怪我を負った…なんて話は何度も聞いた事がありましたので浄化をするに越した事はありません」

「パッと見た感じ、この村平和そうだったから魔物に襲われなきゃ良いんだけど……」


しかし先程イツキはゴブリン襲われた。瘴気があるないにしろ、この村の安全には不安しか無かった。


「でしたら少し、この村を見て回りましょう」

「え、でもライラが……」

「彼女の事は宿屋の女将に頼みましょう。そんなに広い村では無いですし、近くに魔物を見かけたらこっそり退治いたしましょう」

「……分かった」


アリアンの提案にイツキは小さく頷いた。



「潮風が気持ちいい……」


微かに香る潮の匂いにイチカは目を細めた。


「ねぇイツキ。あそこ、魚を焼いてる屋台があるよ!」

「あ、本当だ」

「折角ですし食べますか?」

「食べる!こう、屋台の焼き魚とかイカ焼きって特別な感じがするんだよね」


アリアンの提案により、三人は焼き魚を食べる事にした。

近づいてみると意外と大きさがあり、二十センチぐらいはありそうだった。


「あ、意外と大きい……」

「いらっしゃい。食べていくかい?」

「はい。三つください」

「六十ベルクだよ」


大きさは勿論のこと、身もしっかり詰まっているから片手で持つだけでもかなりの重量があった。


「おぉ…結構重い……」

「ところであんた、結構珍しいトカゲを連れてるね。白くて羽根の生えたトカゲなんて生まれて初めて見たよ」

「え?もしかしてあたしの事?」

「おお!なんと、トカゲが喋った!?」

「トカゲじゃないんだけど!?」


一応ドラゴンではあるが、これでも人間なのだ。ドラゴンは仕方ないにしてもトカゲ扱いは心外である。


「アリアン、ドラゴンってもしかして知名度低いの?」

「地域によりますかね……。北方は伝承が多いのでイチカ様を見たら大騒ぎになるかもしれません」


魔物の恐ろしさは知っていても、ドラゴンという未知の脅威には遭遇した事が無いからのんびりとした反応なのだろう。


「……あ、この魚美味しい」

「イツキ!あたしも食べたい食べたい!」

「はいはい。でも、置ける皿無いしなぁ」

「確かバッグに食器一式が入っていたはずですよ?」

「え?」


アリアンがそう指摘したのは、イツキが肩に掛けてる茶色の四角いバッグである。


「そういえば、旅をする時これ持たされたなぁ」

「それはマジックバッグといって、見た目とは裏腹に大量の物を収納する事が出来るんですよ」

「やっぱりあるんだそういうの!?」

「お皿が欲しいと念じればお皿を取り出す事ができます」

「え〜と、お皿お皿……」


言われた通りに皿が欲しいと念じながら想像以上に深いバッグの中身を探ると、指先に硬いものが当たり掴んで引っ張ると、見事に白い皿を取り出した。


「おお…本当にピンポイントで取り出せた……」

「魔法って本当便利だねぇ」

「お二方の世界には魔法は存在しないのですか?」

「あたし達の世界は魔法が無い代わりに機械技術が進歩しててね……」


二人は魚を食べながら、アリアンに自分達の世界に存在する様々な機械を話したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る