第8話 ココット村①

「や、やった!建物が見えてきた!」


ひたすら真っ直ぐ歩き続けていると、ようやく建物が見えてきた。その事にイツキは歓喜の声をあげた。


「あの、すみません!ここって、泊まれる場所はありますか?」


アリアンが丁度近くを通りかかった老人に声を掛けた。


「おお、旅人かい?て、そのお嬢ちゃん意識ないけど大丈夫かい!?」

「多少無茶をして…休める場所を探してるんです」

「すぐそこに宿屋があるからそこに行きなさい」

「ありがとうございます」


アリアン達は深くお辞儀をして、他より大きい建物へと向かった。


「すみません!三人泊まれますか?」

「いらっしゃい。空きはあるから問題無いよ。て、そこの嬢ちゃん大丈夫かい!?早く寝かせてやりな!」


受付に立っていた女性が、意識ないライラを見て慌てて二階へと案内した。

個室は無く、ハンモックだけが並んだシンプルな部屋だ。


「ライラ大丈夫かな……」

「魔力を使い果たすとこのように強制的に眠りに入るんです。一定の魔力が回復すれば自然と目が覚めるはずです」

「良かった……」

「あ!そうだアリアン。ちょっとイツキの背中見てくれない?さっき魔物に襲われて背中に石斧ぶつけられたのよ」

「ま、魔物!?イツキ様達魔物に襲われたんですか!?」

「うん。背が低くて、皮膚が緑色の」

「恐らく小ゴブリンですね…ちょっと背中見せて貰っても良いですか?」

「お願い……」


イツキは軽く上着を脱いで背中を見せる。あれだけ強い衝撃を受けたにもかかわらず、傷すら入っていなかった。


「あれ?意外と無傷だよ」

「嘘?かなりの衝撃だったんだけど」

「どうやらイツキ様にお渡しした衣装がしっかり機能してるようです」

「これ、ただの冒険用の衣装じゃなかったの?」

「シア様の命令で、物理と魔法をある程度防ぐ防御魔法を付与しているんです」


それのお陰でなんとか無傷で済んだと……。では、その防御魔法が付与されてなかったら確実に危なかったのでは……?

イツキはその可能性を感じてブルリと身を震わせた。


「でもどの程度まで防げるの?」

「オオカミの噛みつきや、先程遭遇したゴブリンの打撃系は大丈夫かと……恐らく斬撃も、強化さえされてなければほぼ無傷で済むと思います。魔法も下級レベルならある程度防げます」

「そっか。……ゴブリンに襲われた時、僕何もできなかった……」


剣の才能を与えられながら、全く戦えず逃げる事しかできなかった。


「誰だっていきなり戦えるわけではありません。少しずつ戦い方を覚えるしかないのです」

「……うん。そうだよね。その時は教えてくれないかな」

「勿論です。それよりもまずは」


スッとアリアンは突然立ち上がる。


「ここが何処なのか宿屋の女将に聞いてきます。お二方はライラをお願いします」


ライラを二人に任せ、アリアンは下へ降りて行った。


「あぁあんた。あのお嬢ちゃんは大丈夫なのかい?」

「はい。一日ぐらい寝てればすぐ元気になるはずです。ところでここはなんという名前の村でしょうか?」

「ここはココット村。リゾート地としてそれなりに人気のある村なんだよ」

「成る程……。地図だと、どの場所にあたりますか?」


アリアンはカウンターに地図を広げて女将に見せる。


「ココット村はこの辺りだね」

「え゛っ……!?」


トン…と、指を差された場所を見て、アリアンは思わず驚愕する。無理もない、本来の目的地より遥かに離れてしまっているからだ。


「……分かりました。ありがとうございます。それから、ここ最近、魔物を見かけませんでしたか?」


これは要相談だなと頭を悩ませると、ふと、イツキがゴブリンに襲われたのを思い出して確認の為に尋ねた。


「魔物ねぇ……。噂じゃ、領主様の土地周りに瘴気が発生してるせいで魔物が活発してるらしくて、人があまり来なくなって困ってるんだ」

「それは何処ですか?」

「ここさ」


と、ココット村から遥か南に指を差した。


「大分距離ありますね……」

「あんた達もそこに行くなら魔物に気をつけなよ」

「はい。色々教えて頂き有難うございます」


アリアンは丁寧にお辞儀しながら二階へ戻るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

竜の唄〜剣使いの兄とドラゴンの妹〜 @mimi_PPP

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ