第4話 夜の会話にて

「お邪魔するよ兄上」


ノックの後にシアはフィドゥの寝室に足を踏み入れる。


「ああ、来たかシア」


紙束の山を眺めながらフィドゥは僅かに視線を上げた。寝室だからか、鉄の目隠しは外されており、波紋のような模様を描く金色の瞳と目が合う。


「兄上ったら、寝室で仕事なんかして……」

「仕方ないだろ。瘴気の影響であちこち問題が発生してるんだから……」


はぁぁぁ…と、フィドゥは大きな溜め息を吐いた。


「ところで二人の様子はどうだ?」

「問題ないよ。観光も充分楽しんでいたようだし。兄上の方も、彼らの旅の同行者は決めたのかい?」

「ああそれでお前に相談があってな。お前の部下の一人を貸して欲しいんだ」

「私の部下かい?一体誰なんだい?」

「グルマンだ」


グルマンは、シアが特に目に掛けている有能な部下だ。


「理由を聞いても?」

「同行者候補は三人。世話役のライラ。護衛役のアリアン。そして交渉役としてグルマンが適任だと考えたんだ」


シアは顎に手を当て、ふむ……と思案する。


ライラは器量が良く、国の英雄の一人であり【神秘】の二つ名を授かったレペティアの数少ない弟子の一人だ。彼女の弟子なだけあって様々な魔術を習得している。サポート面において万能型と言っても差し支えがないだろう。


アリアンは最年少で英雄の称号を与えられ【疾風】の二つ名を授かった天才。

人当たりは良く、礼儀正しい。少々不幸体質であるのを除けば戦闘面においては間違いなく頼りになる。


そしてグルマンはシアの部下であり、交渉術に長けている。

確かに交渉が上手い人が一人でもいれば長旅も幾らか有利になるだろう。


ライラもアリアンも、根が素直なだけに腹の探り合いとかは向いていない。異世界からやってきた彼らも見た限りでは得意そうな感じはしなかった。


「……分かった。良いよ、私の部下を貸してあげる」

「感謝する。あとは旅に必要な道具なんだが……」

「それなら……」


二人は旅に必要な費用、道具などについても話し合い、着実に準備を進めていく。


「そういえば、瘴気の発生場所は把握してるのか?」

「そこは抜かりなく。幸い、魔族領の瘴気発生はあの森だけだった。水上都市エアリス、海底王国アトランティアは問題ないとの報告だよ。ただ……」

「ただ?」

「海の魔物達が普段よりも活発化してるらしいから、海底王国の方は入国を規制するらしい」

「そうなるとエアリスの方も……」

「あぁ。出航も難しいだろうね」


フィドゥ達がいる国への移動手段はエアリスから船で渡るしか無い。おまけに物資の調達も貿易船頼りなので物価の上昇の可能性を考えてフィドゥは頭を抱え出した。

こればかりはシアも難しい表情になる。


二人揃って溜め息を吐くのだった。

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