冬の句

〈冬桜鈍色垣にびいろがきに光添ゆ〉

 これは、初めて霞ヶ城を訪れたときの一コマより。俳句を始めたばかりの頃に詠んだ句を、多少推敲(下五を「光添え」→「光添ゆ」にチェンジ)したものです。


「鈍色垣」ですが、要するに石垣です。色がグレーなので、それを和風の言葉にアレンジしたもの。

 冬桜は「四季桜」の一種ですが、12月下旬に訪れたにも関わらず、本当に桜が咲いていました。

 2021年の話ですが、この時から「直違の紋~」の構想を練っていて、その取材のために二本松を訪れたというわけです。

 石のグレーと淡い冬桜の花びらの色が対称的で、句にしたためました。


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〈わらぐつに宿りし君の神様よ〉


 これは、元々児童文学(わらぐつの中の神様)から着想を得た句です。「わらぐつの中の神様」は、昔、光村図書の小学校5年の国語の教科書に採用されていた作品でした。

 後で調べたところ、作者が越後の出身ということで、かの情景が生まれたようです。ですが、二本松藩でも「わらぐつ」を使っていたことが数度の取材を通じてわかっているので、そのまま取り入れてみました。

 当時の二本松は、冬になるともっと雪深い地域だったのでしょうね。地球温暖化の影響で、今ではさほど積りませんが……。


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しばれたる空の化粧けわい幡祭はたまつり〉


 これは、毎年12月に行われる「木幡こはたの幡祭り」からの一コマです。

 もっとも私は見たことがありませんが、千年余りも続く神事で五色の百数十本の五反旗を押したて、法螺貝を響かせて若人らが木幡山を目指す……という祭りです。

 何でも、前九年の役(1055年)に由来すると言いますから、古いですよね。

 多分、二本松藩でもバックアップをしていたと考えられ、東和とうわ地区の人々の心の拠り所だったのではないでしょうか。


 https://www.city.nihonmatsu.lg.jp/kankou/matsuri/hata_matsuri/page001632.html


 ちなみに、新作です。


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幽谷ゆうこく勢子せこら息詰む鳥叫とりさけび〉


 これも新作で、季語は「鳥叫び」。余り聞かない季語ですが、「鷹狩」の子季語です。

 拙作「鬼と天狗」の「虎落笛もがりぶえ(1)」で、鳴海と善蔵の会話で「追捕雉ついぶきじ」の話が出てきましたが、その「献上のための雉狩り」の光景からの一コマ。


 https://kakuyomu.jp/works/16817330661491248711/episodes/16818093075027728423


 要するに、冬は狩猟シーズンなんですよ。雉そのものは春の季語ですが、この時期、幕府に献上する追捕雉のために農民らは狩猟に駆り出されていたことでしょう。

 また、同話に「蕨の塩漬け」も献上する話が出ていますが、地元の方曰く、「江戸在住の人々の冬の野菜不足を見越して、野菜が不足するこの季節に塩漬け蕨を献上していたのではないか」とのこと。

なるほど~!

(※蕨そのものは、春~初夏の山菜です)


 なお、この小話のタイトルとなっている「虎落笛」も、やはり冬の季語です。



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鴛鴦えんおうや独りごちたる池のほと


 かつて詠んだ、「冬」の一句より。カモ類は割と冬の季語になっていて、鴛鴦(おしどり)もその一つです。

 割と鴨はつがいのイメージがありますが、戊辰戦争で夫を失った妻たちはあの年、どのような冬を過ごしたのでしょうか。

 そんな想像から、今回「連句」の中に入れてみました。


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