夏の句


〈桑の実に口元染むるわらべかな〉


 これは、新作です。丁度現在、「桑の実」が食べ頃を迎えていますが、実物を見たことがある人はいらっしゃるでしょうか?

 真っ黒に熟すと食べ頃で、自然な甘さがあってなかなか美味です。


 安達地方は幕末~明治時代にかけて、国内有数の生糸の生産地でした。ご存知のように、蚕の作る「繭」をほぐして撚り合わせたものが生糸、それを原材料として織った織物が「絹」なわけです。

 蚕の餌となる「桑畑」も当然、福島県北地方ではかなり大規模に生産されていたはずです。武士の子どもたちも、ひょっとしたら「おやつ」として桑の実を食べていたかもしれません。

 何せ、二本松少年隊のエピソードで「大砲を乗せた第八車が、勢い余って桑畑に突っ込んだ」という話が語り継がれているくらいですからね(笑)。

 近年は桑そのものを見る機会も減ってしまいましたが、当時の子どもたちにとっては、「桑」はごく身近なものだったのではないでしょうか。


 ***


〈雲海に浮かぶ箕輪みのわや今もなほ〉


 これは、Xのフォロワー様が投稿されていた写真から着想を得た句です。

 ちなみに「箕輪」とは


 中部地方以東で、砦(とりで)を中心に発達した村をいう。 突出した丘の周囲を取り囲んだ村落が箕の形に似ているところからいう。

 出典:コトバンク


 だそう。

 まあそれに全く関係なく?二本松城(霞ヶ城)のシンボルである「箕輪門」は、領内にある「箕輪村」から供出された材木を使って建てられたとのこと。

 ですが、フォロワー様が霞ヶ城跡地の天辺てっぺん撮影された夏の早朝の「雲海」の光景が素晴らしく、咄嗟に詠ませて頂いた次第です。


 ***


〈朝涼み静寂しじま破れり時鳥ほととぎす


 これは、昨年夏に詠んだ句より。二本松に直接は関係ありませんが、ほととぎすは夏鳥の代表的な鳥ではないでしょうか。

 そして、季重なりっちゃあ季重なりの可能性を指摘された句でもあります。

 →「朝涼し」という季語もある。

 ですが、句意としては「早朝の散歩」なので、「季重なり」と言うには微妙なところかなあ……とは思っています。

 絶対のタブーではないですしね、季重なりは。

 まあ早朝から啼くほととぎすは、郭公かっこうと同じように、夏の訪れを告げてくれる鳥なのです。


 ***


〈先陣を取りつ取られつ法師蝉ほうしぜみ


 法師蝉とは、「ツクツクボウシ」のことです。あれも、結構な大音量で鳴きますよね。

 季語としては晩夏の季語ですが、短い生命を惜しみつつ競い合うかのように鳴く様子は、武士たちの「先陣争い」を彷彿とさせます。

 次第に鳴くスパンが短くなっていって、最後は「ジーッ」と断末魔のような声を引いて終わる様子も、何となく「武士」っぽい(笑)。

 そんなわけで、この句となりました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る