第15話 薬の材料を集めよう

「自己紹介が遅れました……私はシャイナって言います! 不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします!」

「あ、はい。えと。私は魔法使いのアイリスです……どうぞよしなに」


 私と店員さん――シャイナさんは、店を出るとそのままフラール山へとやって来ていた。

 ……いや。あの。何でついて来ていらっしゃるのでしょうか。

 薬の材料は私一人でも十分だと思うんですけど。


「シャイナさん……おうちで休んでいても大丈夫ですよ? ほ、ほら、お父さんの看病とかもあるでしょうし……」

「それは妹に任せてるから大丈夫です」


 あ、妹さんいたんですね。

 それなら大丈夫か……私としては一人のほうが圧倒的にやりやすいんだけど。


「それでアイリスさん、どんな材料が必要なんですか?」

「えーっと……アオニガソウにレイゼンソウ、コウゴウバチのエキスにアイズブタの肝……他にもたくさんあったと思います」

「それ本当にこの辺りでとれるんでしょうか……?」

「あ、そんなにレアなものじゃないので……でも一応、聞いてみましょうか。……が、ガルー? いるー?」


 私が声をかけた瞬間、しゅばっ! と猛烈な勢いでモフモフが近づいてきた。

 いつの間にか目の前には巨大な犬――神犬族のガルがお座りの状態でこちらを見下ろしている。


「ガル、急に呼んじゃってごめんね。今大丈夫かな……?」

あるじのご用命よりも大切なものはありません。何なりとお言いつけください』


 そんなに畏まられても困るんだけどな。でもガルは私よりも山に詳しいはずだし、その知恵に頼らない手はない。

 と思っていたら、隣から「ひゃあー!」という悲鳴が聞こえた。

 隣のシャイナさんが腰を抜かして座り込んでいた。


「で、でっかい犬!? た、たた、食べないでくださいー!」

「だ、大丈夫ですよシャイナさん! この子はガルって言って……」

『何だ人間。主の山に無断で立ち入るとは……食い殺されたいのか?』


 なに脅してんの!?


「ひいいいいい! でっかい犬がしゃべったああああ!」

「こ、こらガル、脅かしちゃダメだよ! シャイナさんは私がこれからお世話になる魔道具店の店員さんなんだから……!」

『む。そうであったか……すまない』


 ガルはしゅんと項垂れてしまった。素直に謝れてえらい子だ。

 私はその場でガクガクと震えているシャイナさんに手を差し伸べて、


「ごめんなさい……この子はガルって言うんです。私の……その、友達みたいなもので」

『私は主の友達ではなくシモベだ』


 せっかく勇気を出して友達宣言したのに、シモベって。シャイナさんに誤解されたらどうするんだ。


「だ、大丈夫なんですか? 噛んだりしませんか?」

「もちろんです。ほらガル……えっと、お手」


 無害アピールをさせるために手を差し伸べた。ガルは全然躊躇いなしに手を重ねてくれた。まるで普通の犬みたいだった。

 それを見たシャイナさんが、目をキラキラさせて私を見つめてきた。


「すごいです……! さすがはアイリスさん、こんなにおっきな猛獣を手懐けるなんて……!」

「え? あ、あははは……そうですね……」

「尊敬しちゃいます! やっぱり魔法使いってすごいんですね!」


 そんな目で見つめられても困る。尊敬されることには慣れていないのだ。勇者パーティーでは勇者が異様に目立っていたため、私が脚光を浴びることはほとんど無かったし……。

 居た堪れなくなった私は、ガルのほうに視線を向けて言った。


「ガル。ちょっとお願いがあるんだけど……この素材ってフラール山でとれるかな?」


 メモを見せると、ガルは「がるる」と頷いた。

 もしやとは思ったけど、この子は字が読めるみたい。賢い。


『これくらいならすぐに集まる。私についてくるがいい』

「ありがとう……!」


 私とシャイナさんはガルに引き連れられてフラール村を探索した。ガルの言った通り、素材はすぐに見つけることができたので一安心。


 ……ただ、シャイナさんの私を見る目がますます輝き始めたのはせない。私はそんなにスゴイ人物じゃないのに。

 いやまあ、私はそれなりに強い魔法使いなんだけど。


 とにかく、次は薬を調合しなくちゃだ。マドワ村のみんなを助けないとだからね。

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