第14話 大変な状態のようです

「呪われてるって……どういうことですか……?」


 店員さんが目を丸くして私を見つめる。

 私は気づいてしまったのだ。あれは探知トゥンゼにも引っかからない邪悪な罠。勇者パーティーとして様々な土地を巡ってきた私だからこそ、店員さんのお父さんの異変を察知することができた。


「で、でたらめ言ってるわけではありません。えっと……お父さんの首筋に……『×』みたいな印がついてませんでしたか?」

「た、確かにあります。ずっと何なんだろうって思ってたんですけど」

「それが呪いの印です」


 私はなるべく怖がらせないように言葉を続ける。


「呪いを仕掛けたのは……たぶん、メザーデビルという魔物です。彼らは人に呪いを植えつけ、その命を食いつくし……繁殖するんです」

「そんな……!」


 メザーデビルは単体の力は弱いが、この呪いが厄介なのである。何せ魔力反応が全然無いから、探知トゥンゼで発見することができない。見分ける方法はただ一つ、身体のどこかに浮かび上がると言われる『×』の印だけだ。

 呪いをかけられた宿主は、一カ月ほど高熱にうなされ……最終的にメザーデビルの幼体にお腹を食い破られて息絶える。


 自分で説明しておいてなんだけど、あまりにもグロすぎだ。

 でも、世界にはこういうヤバい魔物が何匹も生息している。


「えっと……店員さん、お父さんの他にこういう症状の人はいませんか?」

「い、います! 今マドワ村にはたくさんの病人がいるんです! ど、どうしたらお父さんは助かるんでしょうか……!?」


 私はその問いに答える前に、照合シャーゴの魔法を発動した。

 これは指定したモノと同じモノが範囲内に存在するかどうかを見極める魔法だ。使いどころはあんまり無いけれど、今回ばかりは役に立つ。


 対象は……メザーデビルの『×』マーク。範囲はもちろんマドワ村全域。

 ぽつぽつと×マークが示されていく。

 その数は、ちょうど20個。かなりの数の被害者がいるようだった。


「……助かるためには呪いを解くしかありません」

「どうやって解くんですか!? 私、何でもします……!」


 店員さんがグイッと近づいて来た。

 顔が近い。怖い。恥ずかしい。コミュ障には刺激が強い。

 私は慌てて後退しながら、


「あ、えと、その、店員さんにできることはそんなに無いと言いますか……」

「お父さんを助けたいんです! 助ける方法を教えてくださいっ」

「そ、それはですね……、薬を、作ればいいんですけど」

「薬ですか! どうやって作るんですか!?」

「ひいぃ」


 私は店員さんから逃げながらしゃべる。店員さんは何故か追いかけてくる。テーブルの周りをぐーるぐると二人で追いかけっこする。必死なのは分かるけど落ち着いてほしい。


「く、薬はですね、材料が必要なんです! わ、わた、私なら作り方も知ってますし……お任せいただければ、マドワ村の患者全員ぶんのものを作りますっ……!」

「ほ、本当ですか!? すごいですお客さん!」

「ひいいぃぃ」


 いきなり手をギュッと包み込むようにして握られてしまった。まずい。手汗が。ごめんなさい、気持ち悪いですよね……。


 いやいや、そんなどうでも良いことを気にしている場合じゃない。

 今は一刻も早くマドワ村を助けなければならないのだから。

 だって、そうしないと私のスローライフが成り立たない。


「あ、でも……薬代ってすごく高いですよね……? 私に払えるでしょうか……」

「いえ、それは大丈夫です。かわりと言っては何ですが……」


 店員さんがゴクリと喉を鳴らして私の言葉を待つ。

 法外な対価でも要求されると思っているのだろうか。

 まあ確かに法外と言えば法外かもしれないけれど、ちゃんと自分の要求は通さなければならないのだ。これまでの人生、言いたいことを口に出せずに後悔してきたことは何度もあるから。

 私は意を決して口を開いた。


「……お父さんが回復したら、このお店で爆買いしても、いいでしょうか……?」

「もちろんです!!!!!!!! お客さんのためなら何でも売っちゃいます!!!!!!!!!」

「ひいいいぃぃぃ」


 手を握ったままぶんぶんと上下に振り回された。

 ……とにかく、まずは薬を作るための材料を集めなくちゃ。

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