第13話 呪われていますよ

 ドヤ顔で爆買い宣言をした私。

 私が指定したのは、生活全般に必要と思われる様々なアイテムだ。椅子やテーブル、本棚、その他、火を起こしたり水流を発生させたりできる魔法石などなど。

 とりあえずはドカッと買っておかないとね。

 だって山御殿やまごてんには何も無いんだし。


「えっとぉ……ここにあるの全部ですか?」

「は、はい。お金ならあります……!」


 じゃらりと金貨の入った袋を見せる。

 しかし店員さんは、ものすごく申し訳なさそうに苦笑をした。


「店員の私が言うのもなんですけれど、もうちょっとだけ考えてみるのはいかがでしょうか……?」

「え?」

「お客さん、お店に来た瞬間に決めてしまいましたし……ベイリー魔道具店がマドワ村でいちばんの雑貨屋だってことは否定しませんけど、他にもお店があるので、そっちをチェックしてみるのもいいかと思いますlっ」


 想定外の事態が発生した。

 店員さんが……売り物を売ってくれない……。

 勇気を出して爆買い宣言したのに。

 金貨をじゃらじゃら見せつけているのが馬鹿みたいだ。そしてこういう状況に陥った時のコミュ障には、柔軟な対応なんて期待するだけ無駄である。

 つまり、私の頭はバグった。


「で、でも! お金ならあります! 買わせてください!」

「そう言われましても」

「なんなら定価の二倍! いえ、五倍出します! 買わせてもらえるまでここで暮らしますからっ……!」

「うわあああ! やめてください!」


 テーブルの下に潜り込もうとする私を、店員さんが慌てて止めた。

 はっ……私は何をやっているんだ。会話が想定していなかった方向に進んだので暴走してしまったらしい。


「ご、ごめんなさい。お店でものが変えないという状況にびっくりしちゃって……」

「あ、あはは……申し訳ございません」


 店員さんの顔が引きつっている。黒歴史確定。穴が合ったら入りたい。テーブルがあったら潜りたい。


「で、でも、どうして、売っていただけないのでしょうか……? もしかして会員制とかだったり……?」

「そうじゃないんです。今たくさん商品を買われてしまうと、ちょっと困ってしまうと言いますか……」

「――シャイナ! 客が買いたいって言ってるんだから売ってやれ!」


 その時、店の奥のほうから掠れた声が聞こえてきた。

 暖簾のれんから顔を出したのは、ちょび髭が印象的な強面こわもてのおじさんである。でも何だかめちゃくちゃ具合が悪そうだった。顔が真っ青だし、ぜえぜえと肩で息をしている。それに……視熱レーグで確認してみると、熱が39度もあった。


「お、お父さん! ベッドで寝てなくちゃ駄目でしょ……!?」

「商売の機会を逃してどうするんだ! 店に並べてあるんだから、全部売っちまえ!」

「でも……お父さんが寝込んでるから在庫が補充できないよ!?」

「無くなったら俺が作るから問題ない……げほげほげほっ!」

「わあっ、無理しないでよっ!」


 おじさんは咳をしてその場に膝をついてしまった。店員さんが大慌てでおじさんを支える。

 今の会話で何となく状況が理解できてしまった。

 たぶん、このお店の商品を作っているのは、あのおじさんなのである。娘である店員さんでは在庫を補充することができないから、一気に大量購入されてしまったら大変なことになるのだ。


 そう考えると、私ってとんでもなく間が悪かったのかもしれない。

 よく勇者パーティーの盗賊さんにも言われたっけ。


 ――アイリス、きみはモノに頓着がなさすぎるね。目についたものは即購入、量や値段、品質をまったく気にしない。もうちょっと考えてみたらどうなんだ?


 ごめんなさい。仰る通りです。山御殿も即断即決で買っちゃったし。


「ほら、ベッドに戻ってよ! 寝てなくちゃ治らないから……!」

「うう……と、とにかく、客の望みは叶えてやるんだぞ!」


 おじさんは店員さんに連れられて店の奥に去っていった。しばらくすると、店員さんが申し訳なさそうな顔をして戻ってくる。


「ごめんなさい……! 今のがうちの店主なんですけど、ちょっと体調を崩していて……一気に買われてしまうと、在庫がなくなっちゃうんです」

「そ、そそ、そうだったんですね……私みたいな何も知らない魔法使いが変なこと言っちゃってごめんなさい……」

「そ、そんなことないですよぉ! こちらこそ、せっかくお買い求めいただいたのにごめんなさい……!」


 お互いぺこぺこ頭を下げ合う。

 仕方ない、今日のところは椅子といくつかの魔法石を買う程度にしようか。

 だけど……。


「……あの。店員さん」

「はい、何でしょうか?」


 ここで言うべきかどうか迷った。

 けれど、事実は正確に伝えたほうがいい。

 私は深呼吸をしてから、慎重に言葉を選んで口を開いた。


「あなたのお父さん、

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