第12話 爆買いって気持ちいい
マドワ村までやって来た私は、いったんアジサイ不動産に寄った。
この村で知り合い(と言っていいかは微妙だけど)なのは、山を売ってくれたおじさんしかいないからだ。
「おやお嬢ちゃん、心配してたんだよ。昨夜は何とも無かったかい?」
「は、はいっ。大丈夫でした……」
「そうか。でもまだ何が起きるか分からないから気をつけてくれよ。言い忘れていたが、山から来る何かの他に、家の中でも誰かの気配を感じたっていう話もあるんだ」
何そのホラー展開(2回目)。
でもまあ、それは完全に気のせいだろう。私の
「あ、あの、話は変わるのですが」
「ん?」
「最近、病気が流行っているみたいな話は、ありますでしょうか……?」
「んんー、そう言えば、最近やけに体調不良のやつが多いな。魔道具店のおやじも一週間くらい寝込んだままだって話を聞いたぞ」
「疫病とか、ですか……?」
「いやいや、単なる風邪だろうさ」
その可能性も十分にあるだろうけれど、ガルが忠告してきたくらいだから、何かがありそうな気がした。
まあ、その点については後々調べるとしよう。
今は買い物をしなければならない。
「も、もう一つ質問なんですが、その、この辺りに家具とか魔道具を売ってるお店はないでしょうか? あ、でも、魔道具店の人は寝込んでるんでしたっけ?」
「おやじは寝込んでるが、娘さんが店を開けてるだろうよ。場所は――」
おじさんにお店の場所を教えてもらった私は、アジサイ不動産を後にした。
あのおじさん、よそ者の私にもすごく優しい。後で引っ越しのご挨拶も兼ねて菓子折りでも持っていこうかな。
5分くらい歩くと、目的地の魔道具店に到着した。狭い村であるため、メインストリートに重要な店がぎっしり詰まっているようだ。
看板を見上げてみると、『ベイリー魔道具店』と書かれている。ここではちょっとした家具も取り扱っているらしい。
「ご、ごめんくださーい……」
コミュ障らしく掠れた声をあげてながら扉を開くと、からんからーんとドアベルの音が鳴り響いた。
それほど広くない店内には、ところせましとモノが並んでいる。椅子やテーブルはもちろん、色々な色の液体が入った小瓶がずらり。あ、あっちにあるのは魔道具だ。シャワーになったり、火を起こしたりできる魔法石とかもある。
なんというか、雑多な雑貨屋という感じだ。
こういう雰囲気のお店、けっこう好きだったりする。
「いらっしゃいませー! わ、珍しいお客さん!」
店の奥から女の子が出てきた。ふわふわとしたピンク色の髪と、大きくてまんまるな目が特徴的な子だ。
「あ、どうも……えと」
「わあ、魔法使いみたいな服ですね……! もしかして魔法を使えたりするんですか!?」
「あ、はい」
「すごいすごい! 私の周りにはマトモに魔法使える人がいなくって! っていうかお客さん、マドワ村の人じゃないですよね!? 旅人の方ですか!?」
何この子。めちゃくちゃグイグイ来る。私のコミュ障センサーがアラートを鳴らしている。でも
「あ、あのっ!」
「はい何でございましょう!」
「ここにあるモノって、全部売り物ですよね……?」
「もちろんです!」
女の子はハキハキと答えた。
「家具や小物、インテリアはもちろん、魔力の籠もった道具まで何でもござれ! うちはマドワ村で一番の魔道具店ですよ!」
「あ、じゃあ。ここからここまで全部ください」
「……へ?」
「うち、今何もなくて。生活必需品が全然足りてないんです。家具のデザインとかも気に入ったので……ここからここまで全部……」
私は手を大きく広げて範囲を示した。
値札はよく見ていないけれど、大丈夫だろう。勇者パーティーでは一切贅沢をしていなかったから(宴会費用とかは全部勇者が出していた)、それなりに貯蓄はあるのだ。
「本当ですか……?」
しかし、店員さんは何故か目を丸くしてびっくりしていた。
爆買いしすぎかな? でも必要なものは必要なんだ。
私は自信満々に頷いて言った。
「お願いします。一括払いで……!」
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