第11話 川で水浴び

 昨日は色々なことがあった。

 昨晩の大宴会の名残で寝坊して、勇者たちと荒野を3キロくらい歩いて、魔獣バルガンドゥスに向かって自爆して、辺境の山を買って、山に住んでいる神犬しんけん族たちをゴブリンから守って……。

 とんでもない一日だ。後半は勇者パーティーの仕事と比べたら天国みたいなものだけど。


「ふわ~あ……よく寝た……」


 で、起きたらお昼になっていた。すでに太陽は天高く昇り、さんさんとした陽光が山御殿の庭に降り注いでいる。

 今になって気づいたけど、この家は山の中にあるくせに日当たりがとても良い。フラール山の高い部分がちょうど北にそびえているからだろう。これなら庭で畑とかもできそうだ。


「水浴びしなくちゃ……」


 昨日から働きっぱなしだったので、汗でべとべとだ。今日はマドワ村に家具を買いに行かなくちゃだし、その前に身体をきれいにするとしよう。


 私は山御殿やまごてんを出発すると、道なき道を歩き始めた。しばらく進むと、さらさらと水が流れる音が聞こえてくる。転移テルイしてきた直後に見つけた川だ。

 よし、水はきれい。ひとまずここを水浴び場にしよう。


「……誰もいないよね?」


 きょろきょろと辺りを確認してから、私は着ていたローブを脱いでいく。ソックスも脱いで裸足になると、ちゃぷりと爪先を水面につけてみた。


 季節は春。まだちょっと冷たいけれど、むしろ気持ちいいくらいだ。私はそのまま下着を外して生まれたままの姿になると、収納シュノーでタオルを取り出して川に浸かった。


 あ~冷たくて気持ちいい……。生き返る……。

 やっぱり朝に身体を清めるのは重要だよね。これだけで一日頑張ろうって気分に……、


『……主、朝が遅いな。我々と同じで夜行性なのか』

「ひゃあああ!?」


 ざぶーん! と飛沫をあげてひっくり返ってしまった。

 川岸のところにガルが座ってこっちを見ていた。

 え、ちょ、いつの間に……!?

 いや、水浴びに夢中すぎて探知トゥンゼを発動させておくのを忘れていたんだ……!


『どうした主よ。不都合でもあったか?』

「な、何でガルがここに……!?」

『主の身辺警護をするのは我らの役目だ。夜間、主の邸宅も神犬族で見回りをしている』


 そうだったの……。

 爆睡してたから全然気づかなかったよ。


「そ、そっか。ありがとね。ガルは偉いね」

『うむ』


 真面目な表情だが、ぶんぶんと尻尾を振って喜びを表現するガル。

 やっぱり犬だ。犬ってことは水浴びを覗かれても問題ないか。私は深呼吸をしてから、何事も無かったかのようにタオルで身体を拭っていく。


『主、今日の予定は』

「えっと、村に行って家具を揃える予定だよ。私の家……山御殿は、今のところ何も無いから……」

『そうか。人間の村に行くのでは我々はついて行けないな……』


 ガルは残念そうに耳をぺたんとさせた。そんなに私といたいのか。気持ちは嬉しいけれど。


『だが主よ、気をつけるといい。今のマドワ村からはよくないニオイがするぞ』

「え? どんな?」

『魔物と関係しているかは知らぬが、おそらく病の類いだ』

「うーむ……」


 昨日村を訪れた時は全然気づかなかった。私の探知トゥンゼはそういう曖昧なものまで察知できるわけじゃないのだ。

 これは調査してみる必要がある。勇者パーティーとして旅をしていた時、疫病で滅びてしまった村に立ち寄ったこともあるけれど、マドワ村がそんなことになったらスローライフどころじゃなくなっちゃうし。


「よし、じゃあ家具を買うついでに調べてみるよ」

『気をつけてくれ。何が起こるか分からない』

「うん、忠告ありがとね」


 まあ、まずは自分の生活基盤を整えることが先だけどね。

 家具もそうだけど、魔法道具(あるいはそれを作るための材料)も揃えなくちゃいけない。家のシャワーが使えないままだと面倒だし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る