第5話 まずは掃除をしよう

 山つき一戸建てを購入することができた。

 おじさんは最後まで渋る様子を見せていたけれど、私がじゃらじゃらと金貨を見せつけたら何も言わなくなった。現金なものである。


「しかし、生活に必要なものはどうするんだ? あの家には家具も何も置いてないはずだが」

「それは何とかします。私、こう見えても魔法使いなので……!」

「まあ、どう見ても魔法使いだが……」


 私はおじさんに見送られてアジサイ不動産を出た。

 鍵と契約書の控えをもらったので、もうあの一軒家と山は私のものである。おじさんによれば、あの山の正確な面積は分かっていないらしい。奥のほうは人が立ち入った記録も無いため、完全に未開の地というわけだ。


 誰も寄り付かない場所でのんびりスローライフ。

 しかも山を探検して野草をとったり、薬を調合したり、料理を作ったり、魔法の研究をしたり……やりたい放題の人生が幕開けなのである。


「ふふ……楽しみ」


 ここから家までは徒歩でだいたい20分。

 しかし私には魔法というものがあるのだ。杖を振って「転移テルイ」と唱えると、私の身体は一瞬にして光に包まれていった。


 次に目を開けた時にはもう、赤い屋根の一軒家の前。さっき訪れた時に場所を登録したから、転移テルイを発動すればすぐに戻ってこられるのだ。


 私は夢のマイホームを見上げる。

 ここが第二の人生の拠点……何だかワクワクしてきた。呼び名が単なる「家」とか「一軒家」じゃ味気ないから、なんか名前をつけようか。


 赤の家、魔女ホーム、不思議な山小屋……色々思いついたけれど、やっぱりシンプルに「山御殿やまごてん」がいいかな。ダサい? まあ、ネーミングセンスについてのツッコミは無しで。


 そうと決まれば、まずは山御殿の掃除をしなくちゃ。

 もらった鍵でがちゃりと玄関の扉を開ける。巨大なエントランスには、物らしい物が一切ない。そのかわり、陰気な空気と大量の埃が出迎えてくれた。


「うへえ……これは夜までかかりそう」


 ずーっと放置されていたに違いない。でも、だからこそやり甲斐があるというものだ。勇者と一緒にバケモノ退治をするより百万倍楽な仕事である。


 私はマスクを装着すると、収納シュノーでバケツや雑巾、箒を取り出した。さらにそれら一つ一つに対して操作ラズオの魔法をかけていく。私お手製のお掃除部隊の完成だ。


「さあ、みんな! 頑張って綺麗にしよう!」


 号令をかけてあげると、掃除用具たちが一斉に散らばっていった。埃を掃いたり、窓を拭いたり、庭の草刈りを始めたり。私は彼らの活躍を見守りながら、山御殿の探索を始めた。


 アジサイ不動産でもらってきた見取り図によれば、この家には十個の部屋とリビング、ダイニング、その他お風呂やお手洗いなどがあるらしい。一人で住むには広すぎる気がするけれど、空き部屋は物置きとかにすればいいので問題はない。


「ふふ。ふふふ……」


 思わず笑いをこぼしてしまった。これから自由な生活を送れるかと思うと、楽しくて仕方が無かった。勇者パーティーで働いていたおかげでお金には困っていないし、無理に働く必要もないのだ。


 まあ、まずは掃除を終わらせなくちゃだけどね。

 結局、すべてが片付いてピカピカになる頃には、すっかり陽が暮れてしまっていた。

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