第4話 一括払いで購入します

 そういうわけで、私はマドワ村のアジサイ不動産までやって来た。

 あの一軒家から徒歩で20分くらいだ。

 看板に詳細な地図が書かれてあったし、人の気配を探知する魔法――探知トゥンゼもあるので、迷うことも無かった。


 マドワ村は長閑のどかな場所だった。

 木造の家屋が立ち並び、牛とか馬を引いている村人の姿がちらほら見えた。中央の商店街には色々な店があったけれど、食べ物とか衣服を売っているものがほとんどで、王都みたいに魔道具を取り扱っている店は見受けられない。


 アジサイ不動産は、商店街の端っこにちょこんと店舗を構えていた。

『いい物件をお捜しならこちらまで!』

 そんなことが書いてあるけれど、はたして繁盛しているのだろうか。店内はどことなく薄暗いし、カウンターのところで新聞を読んでいるおじさんは、ちょっと顔が怖い。


「あ、あ、あの、家の購入でお話しがあるんでしゅけど」


 噛んでしまった。人と話すのに慣れていないからだ。初対面となればなおさら。おじさんは、胡散臭そうな目でこっちを見つめてきた。ごめんなさい。


「あんた、客かね? この辺りのもんじゃないな」

「へあ! そ、そうですね、お、王都のほうからやって来ましたというか……」

「ふうん。移住者ってわけか。村長がこのことを知ったら、大喜びだろうね。この辺りはどんどん人口が減ってるからねえ」


 そうなんだ。たぶん若い人たちは都会に出たがるのだろう。私にとってマドワ村みたいな田舎は天国なのに……。


「え、えっと、家とかを買いたいんですけど」

「ああ、どれくらいのをお望みかね? 家賃2万ベルくらいならいくらでもあるが」

「そうじゃなくて……、あっちの山のふもとにあった、立派な一軒家がいいんですけど」


 おじさんの目つきが変わった。


「正気かい? あんな辺鄙へんぴなところに……」

「はい。とっても素敵な場所だなって。山もついてくるって言うから……」

「あの辺りは最近魔物もちらほら出るんだよ。見たところ一人だろうし、危険だと思うんだが」

「だ、大丈夫です! こう見えても魔法が使えますから!」


 まあ、元勇者パーティーだってことは教えられないけどね。人の口に戸は立てられぬって言うし、私の情報が勇者に伝わったらとんでもないことになるから。

 しかしおじさんは、未だに渋る様子を見せていた。


「……この際だから教えちまおうか。あそこに入居した客はな、一月と経たないうちに出て行っちまうんだ」

「どういうことですか……?」

「夜になると山から何か来るんだとよ」


 何そのホラー展開。


「昔っからあの山には妙な噂があるんだ。魔物だけじゃない、もっと恐ろしいバケモノが住んでるかもしれないんだぞ」

「ええ……? でも、すごく空気とか綺麗でしたよ……?」

「住んでみりゃ分かるよ。……ま、オススメはしないけどね」


 うーん……たぶん、それって精霊とかじゃないだろうか?

 精霊はイタズラ好きなのが多いし、前の入居者さんはそれにびっくりして出て行ってしまったのかも。


 話を聞いた限りだと、それほど危険そうには思えなかった。

 何せ、私は一度あの家(と山)を訪ねたのだ。探知トゥンゼしてもそんなにヤバそうなものは引っかからなかったし、おじさんの杞憂という可能性が高い。


 まあ、何かあっても自分で撃退すればいいだけのことだしね。

 というわけで、私は収納シュノーを発動して金貨の入った袋を取り出した。

 それをカウンターの上にドンと置き、言ってのける。


「こ、購入します。一括払いで……!」

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