第3話 転移先は山らしい

 さて、勇者パーティーを離脱できたはいいものの、今後のことを考えなければならない。

 今私が立っているのは、明らかに森……あるいは山の中だ。

 転移テルイの先は指定していなかったから、ここが大陸のどこなのかも分からない。けっこう遠くに飛ばされたとは思うんだけど。


「んー。どうしよっかな……」


 パチパチと焚火が爆ぜた。

 焼き魚(川で捕まえたやつ)を頬張りながら、私はこれからの方針を考える。自由を獲得できたのはいいけれど、私にはこれといって夢や目標がない。

 図書館で働く……のは今更だし。というか働きたくないし。できれば辺境の地で野菜を育てながら静かに暮らしたい。


「ま、ちょっと歩いてみるか」


 私は火の始末をすると、最後の焼き魚をぱくりと食べてから立ち上がった。

 たぶん何とかなるだろう。ならなかったらまた転移テルイを使って街に出ればいいだけのことだ。


 辺りは本当に静かな森だった。

 魔王の侵攻が嘘のように平和。こういうところでひっそり暮らしたい。動物たちと戯れながら、山仕事に精を出して……それなら誰とも話さないで済むだろうし。


「わ。たくさん野草が生えてる」


 よく見れば、滅多に見られない野草や薬草がたくさん生えていた。こっちは煮て食べると美味しいゼンマイソウ、あっちは薬にすると超強力な効果を発揮するアオニガソウ。これらを摘んで売るだけでもお金になるんじゃないだろうか。私有地って場合もあるから摘まないけどね。


 それから少し進んだ時のことである。

 急に開けた場所に出たかと思ったら、でーんと建っている一軒家を発見した。大きさは私の実家の三倍くらい。あれなら十人家族でも余裕で暮らせるほどだ。赤い屋根と煙突がトレードマークで、木々の緑と対比されてそこだけがくっきりと浮いていた。


「えっと……誰か住んでるのかな?」


 魔力を飛ばして確認してみる。しかし人の気配はなかった。空き家……なのだろうか。確かに、家の前庭は草がぼうぼうと生い茂っていた。まるで魔女でも住んでいそうな佇まいだ。や、私も魔女だけど。


 恐る恐る家に近づいてみると、玄関の手前に看板が立っているのが見えた。

 何だろう? この家の持ち主からのメッセージ?



『売り出し中 山つき一戸建て

 ご相談はマドワ村のアジサイ不動産まで』



「……あ、売ってるんだ」


 だから人が住んでいる気配が無かったのか。

 私はゆっくりと一軒家を見上げた。よく分からないけれど、ここなら勇者パーティーとは無縁の生活が遅れそうな気がする。田舎だし、自然豊かだし、野草がいっぱい生えているし……一人で魔法の研究に没頭することもできるだろう。


 よし決めた。

 これも何かの巡り合わせに違いないんだ。


「ここで暮らしてみるのも、悪くないかも」

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