第2話 自由を手に入れた!
このままだと死んじゃう。
何が何でも勇者パーティーを抜ける必要があった。だけど勇者は世界の中心が自分であると信じて疑わない超絶陽キャで、私の気持ちなんて一ミリも理解してくれない。
一回、試しに『退職願』を提出してみたのだけれど。
勇者は私の肩にポンと手を置き、無駄に優しそうな顔をして言ったのだ。
「アイリス、自信がないんだろ?」
「へ?」
「大丈夫だ。俺たちはお前の回復魔法や攻撃魔法に助けられている……お前のかわりなんて誰もいないのさ。……だから、自分を卑下するようなことはするなよ。お前はここにいていいんだ!」
「…………」
いや違うから。
変な方向に解釈しないでください。
自分の力に自信が無いから勇者パーティーを辞めたいんじゃなくて、ブラックすぎるから辞めたいだけなんですけど。
「あ、あの、そうじゃなくて……労働時間がちょっと……長いから……」
「労働時間? ああ、俺はアイリスに負担をかけていたのか! 分かった、疲れているんだな? その疲労を癒すために、今日から毎日宴会をしよう!」
「…………」
もちろん労働時間に変化はなかった。訳の分からん宴の時間は伸びた。この勇者には耳がついていないらしい。と言うか、読解能力が全然無いらしい。
何を言っても無駄だ。
それを悟った私は、正攻法ではなく邪道な方法で勇者パーティーを離脱することにした。
魔物との戦いで死んだフリをして逃げる。それしか無かった。
折しも勇者パーティーご一行は、〝瘴気の大森林〟に潜む〝魔獣バルガンドゥス〟を討伐するために行動をしていた。魔獣バルガンドゥス……名前からしてヤバそうだが、実際にそこそこヤバイ。人間の頭部に手足が生えたような意味不明な見た目をしており、全長は15メートルくらいある。それが周辺の村で人や家畜を食い荒らしているというのだ。世も末である。
「魔獣バルガンドゥス……なんというパワーだ!」
勇者が剣を構えて叫んでいる。
私たちの目の前では、巨大な魔獣が咆哮をあげていた。すでに何度か攻撃を加えているが、効いている気配はない。
「おい、どうするんだ!? さっさとあの装甲を壊さねえと、被害が拡大するぞ!?」
戦士が叫んだ。
バルガンドゥスに勇者パーティーの攻撃が効いている気配は無い。それはやつの体表が、鋼鉄の鎧のようなもので覆われているからだ。たぶん、あれは物理攻撃じゃ壊せないタイプ。
「アイリス! 魔法で何とかならないか!?」
「や、やってみます。でも大規模の魔法じゃないと……」
「何でもいい! 頼む!」
「はいっ」
私はバルガンドゥスに向かって走りながら、絶好のチャンスだと内心で笑った。あのバルガンドゥスはある程度強い。私が無茶な方法で突破しようとしても、勇者たちはそれほど疑問に思わないはずだった。
魔力を練りつつ、勇者たちを振り返った。
「あの……皆さん。今までありがとうございました……」
「何を言ってるんだアイリス……!?」
「皆さんと旅ができて楽しかったです。私はここでお別れですけど……」
「おい待てアイリス! いったい何をするつもりなんだ……!?」
「勇者さん、言ってましたよね? 『俺たちは自分を犠牲にして戦わなくちゃいけないんだ』って。私にとっては、今がその時なんです。皆さんは、あの魔獣を倒して先に進んでください。他の大勢の人を救う義務があるはずですから……」
「やめろアイリス……アイリスぅううううううううううううううううう!!」
勇者の叫び声は無視した。私は魔力をまとってバルガンドゥスに突っ込むと、そのまま魔法を発動させて大爆発した。
自爆特攻。
辺り一面が焼け野原になるくらいの威力である。しかし魔獣と心中なんてごめんだ。私は爆発すると同時に別の魔法を発動させた。こことは別の場所に瞬時に移動できる魔法――
こうして私は勇者パーティーを離脱した。
さらばブラックな職場!
これからは自由な生活を送ってやろう!
あーっはっはっはっはっはっは!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます