第23話 ケンリッジをウィキおじさんとして登録
Dランク冒険者になれたので、すぐにダンジョンへ入れる――、かというとそんなことはなく、まずは初心者講習を受けなければならない。
ダンジョンでのルール、マナー、想定される危険、犯罪行為などの説明が行われる。
これは、ダンジョン中央都市たるケルブ独自のもので、他のダンジョンではここまで厳しくはない。
しかしこれが思ったよりも面白い。
ダンジョンの歴史なども教えてもらえるので、ゲームの設定資料集を読んでいるような気分になる。
ダンジョンを封印しようと、川を繋げて水攻めしたり、石炭をしきつめて火をかけたり、大量の土砂で埋めようとしたり、いろいろと迷走した歴史もある。
折角ダンジョンに運び込んだ石炭がダンジョンに吸収されたところなんて、(笑い)涙なしには語れないだろう。
ダンジョンは落ちてる物を吸収する性質があるのに、どうしてそれでいけると思ったんだ。
「いやあ、こんなに熱心に聞いてくれる人は久しぶりだったから、つい熱が入っちゃったよ」
「大変興味深かったです」
「そう言ってくれてうれしいね」
私の他に講習を受ける人はいなかったので、マンツーマンで教えてくれたのは、白髪交じりの頭をしたおじさん事務員のケンリッジさん。
ダンジョンマニアで、ダンジョンの情報を細大漏らさず全て記録することに人生をかけているようなおじさんだ。心の中では、ウィキおじさんと命名している。
『ケンリッジをウィキおじさんとして登録』
うむ。
「特にダンジョン生物説が面白いですね。魔力でマーキングした物質の追跡する考えはなかなか出てくるものではないでしょう」
地球でも、体内を調査する方法として、同位体を用いた方法がある。それに近い考え方だ。
「そうなんだよ。ただ魔力でマーキングしただけではダメなんだ。ダンジョンを生物としてとらえるなら、ただの魔力は消化吸収されてしまう。つまり代謝されない魔力が必要なんだ。人も自然の魔力を代謝して己が魔力として利用している。それと同じようなことがダンジョンでも起こっている。これ1つとっても、生物説の根拠になるだろう。だけど、生物として足りないものもある。そう、それは意識だ。人しかり、動物しかり、魔物だってそうだが、生物にとって意識とは不可欠であると考えられる。ゴーレムについては少し微妙な立場だ。ダンジョンについて話を戻そう。なんだったか、ああそう、魔力だ。代謝されない魔力とは、自信の魔力に近いもの。だけどマーキングとしての効果があるように一部が異なる。この繊細な魔力制御がキモなのさ」
めっちゃ早口。バイオロイドだからしっかりと聞き取れているが、ただの人間だったら面食らっていただろう。
ダンジョンの初心者講習でも終始こんな感じだった。
少し話に出たが、魔力について詳しいのもウィキおじさん、じゃなくてケンリッジさんの非凡な所だろう。
俺もシオンも、魔力を感じることができない。理由は分からないが、バイオロイドだからというのが有力だ。これをなんとかしたい。
魔力を科学的に検証し、最終目標は魔法を使えるようになること。そうだよ。魔法が使いたいんだよ。
『魔力についての情報を更新。さらなる情報のため、生理学的調査を推奨』
『解剖とかか……。ちょっと自分でやるのは精神的ハードル高いな』
解剖自体は禁忌指定されているとかはない。ないんだけど、回復魔法という便利すぎる技術があるせいで、解剖の需要自体が無い。需要がないから禁忌になるほど問題になってないとも言えるか。
ケンリッジさんも代謝という言葉を使っているが、具体的にどういうことが起こっているかは分かっていない。魔力を代謝する器官があるのか、どこにあるのか、どういう機能があるのか、そもそも物理的なものなのか。
魔物の中には、物理的身体を持たないゴーストやレイスといったものもいる。それらも魔力を持っていることから、魔力とは精神で扱うという考えもあるという。
「体の調査は難しいだろうね。この国の弔い方は火葬だし、死刑囚についても明確にその扱いが決められている。ルシルさんの言う、体内を透過?する方法があれば別だろうけど。現状ではそうだね、街の外で襲ってきた盗賊を自分で捕まえて調査するくらいしかないだろうね」
精神的ハードルだけでなく、物理的なハードルも結構高い。
「そうですね。まずは魔物について情報を集めてみます」
「それがいいね。冒険者ギルドの資料室には色々な資料があるから。何か探したい情報があれば手伝うこともできるよ」
「ありがとうございます。機会があれば遠慮なく頼りにさせてもらいます」
ダンジョンに入ることができるようになったので、まずは魔物の調査から始めるのがいいだろう。人間と同じとはいかずとも、魔力についてのとっかかりくらいはつかめるはず。
『魔物の生理学的調査を短期的目的として登録しました』
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