第22話 戦闘の中で成長するのは、主人公だけの特権ではない。
戦闘力試験は、試験官の他に立会人が必要になる。推薦者――俺の場合だとギルドマスター――は立会人になれないので、俺を案内してくれた受付のお姉さんが立会人になってくれた。
だからギルドマスターは試験の立ち合いに来なくてもいい。
「もちろん見学するぞ」
「エルフの魔法を使えないんですが、見に来るんですか?」
「それはそれで気になるだろ」
そういうものだろうか。
俺が今からやろうとしているのは、バイオロイドとしての身体スペックによるゴリ押しだ。武術なんてものは習ったことがないので、しょうがない。
「試験官のミリアだ。同じ女性の方がやりやすいだろうからな。今はギルドの職員をやっているが、元Bランク冒険者だ」
「ミリアよ。よろしくね」
「ルシルです。よろしくお願いします」
「礼儀正しいのね」
試験官は女性だった。それほど筋肉質ではない引き締まった身体は、パワータイプではなくスピードタイプのように見える。
防具は胸当てだけをしているが、この世界の胸当ては、いわゆるブラジャーの代わりも果たしていて、冒険者でなくても運動をする女性は着けていたりする。
「じゃあ早速やりましょうか。武器は短剣で良いの?」
「はい」
「ここから選んでちょうだい」
いくつか長さや重さが違う木剣が差し出されたので、テキトーに選んだ。ミリアさんも木剣を両手に2本持っている。双剣か、良いと思います。くるくる回りながら斬ったりするんだろうか。
「さあ、あなたのタイミングでかかってきなさい」
5メートルほどのスペースを空けて立ち会う。緊張の瞬間だ。
『まずは通常出力でいくからな。攻撃を受けそうなとき以外、戦闘時出力は使わない』
『了承。通常時出力100%』
『ちょ、待て。50%からいこう。足りなかったら上げていけばいいから』
『了承。通常時出力50%』
危なかった。確かに戦闘時出力を使ってはいないが、いきなり通常時出力の全力はまずい。
「いきます」
軽く踏み込んで、袈裟切りに木剣を振り下ろした。ミリアさんはちゃんと反応して、受け止めようとしている。そのままお互いの木剣がぶつかり、俺の木剣は受け止められた。
『よし。良い感じみたいだ』
『肯定。続けて手加減の訓練を推奨』
引き戻した木剣を今度は顔へ向けて突く。首を傾けて避けられた。もう一度だ。避けられた。もう一度。今度は弾かれた。
『ちゃんと手加減して戦えてるな』
『肯定。提案、防御の訓練』
『おっ、そうか。防御もやっておくべきだな。ちょっと攻めるのを控えるか。ついでにミリアさんの攻撃パターンも記録しておいてくれ』
『了承』
攻撃の手を緩めた俺に、ミリアさんの双剣が襲い掛かる。攻撃してくるの木剣は2本なのに、こちらが防御に使える木剣は1本しかない。ちゃんと考えて防がないと手が足りなくなる。
『通常時出力70%』
手が足りない部分は、物理的に出力を上げることで対応する。押され気味だったやり取りも、出力70%でイーブンまで戻せた。
『攻撃パターンの解析。完了。双剣戦闘術を適用するため、思考加速剤を注入します』
『やってくれ』
引き伸ばされた時間の中で、双剣の戦闘を学んでいく。戦闘の中で成長するのは、主人公だけの特権ではない。バイオロイドだって同じことができるぞ。
『思考加速を終了』
『よし。実践だ』
双剣のような手数武器は、攻撃する際にリズムが大事になる。前の攻撃が次の攻撃の布石になり、足さばきには複数の意味がある。逆に言えば、リズムを崩してやれば連撃はできない。
密着するように前進して、腕の可動範囲を限定してやれば……。
『あぶなっ!?』
膝蹴りが飛んできた。
『対抗策の存在。双剣戦闘術を更新します』
しっかりと弱点への対策があったみたいだ。元Bランク冒険者というのは伊達ではない。
こちらの対応としては、丁寧に弾いていくだけだ。足技を使うということは、踏ん張りがきかずに双剣が弱体化するということでもある。攻め手が弱った双剣は、攻撃の軽さもあって大した脅威ではない。
それに、マルチタスクは得意中の得意だ。シオンもいるしな。力の入っていない双剣を片方を素手でいなし、もう片方は木剣で弾き、膝には膝を合わせれば、無防備なお腹に蹴りが入る。
「うぐっ!」
大丈夫だと分かっていても、ミリアさんが爆散しなくてホッとした。
「勝負ありだな」
膝をついて息を整えているミリアさんと、しっかりと立っている俺。勝敗は明らかだった。これなら試験は合格間違いなしだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ、うぐ、現役から、退いたとはいえ、はぁ、ふぅ、こうも手玉に取られるとはね」
「推薦しておいてなんだが、ルシルの戦闘力は新人という枠には収まらんな」
「はぁ、ふぅ、そういうことは事前に教えておいてください、ギルドマスター」
私がやったことではあるが、ミリアさんはずいぶん辛そうである。早く休んで欲しい。
「ちょっときついので後はお任せします。ああ、試験は合格よ。これから頑張ってね」
「ありがとうございます」
「ああ、ゆっくり休めよ。カリン、ルシルの昇格手続きをしておいてくれ。Dランクだ」
「分かりました。ルシルさん、今お持ちのギルドカードをお預かりします」
「はい。お願いします」
やったぜ。これでDランク冒険者だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます