第21話 提案。カバーストーリー「魔法の使えないエルフ」
案内された部屋は、やはり最上階の部屋だった。
「おう、入ってくれ」
聞こえてきた声は低く、立場に見合った深みがある。シオンが表示した容姿と違和感がない。
「失礼します」
部屋の中には、手前側にローテーブルとテーブルを挟むソファ、片側には1人掛けが2つ、もう片側には3人掛けが1つ。
そして部屋の奥には重厚な木製の執務机があり、ギルドマスターが座っていた。
「とりあえず座ってくれ」
「はい」
遠慮する必要も感じなかったので、3人掛けのソファに座った。
「どうぞ、紅茶です」
「ありがとうございます」
案内してくれたお姉さんは、紅茶を出すと部屋を退出していった。これで私とギルドマスターの1対1だ。
対面の1人掛けソファに移動したギルドマスターは紅茶を一気飲みして話し始めた。入れたてなのに熱くないのか?
「急に呼び出して悪かったな。少し確認したいことがあってな。2、3質問に答えてくれるか」
「質問の内容にもよります」
「そりゃそうだ。まずは自己紹介だな。俺はケルブのギルドマスターのローガンだ」
「Fランク冒険者のルシルです」
「ああ。お前さんが自覚してるかは分からんが、最近のギルドで注目の的だからな」
多少は注目されていると思ったけど、ギルドマスターが言うほどか。せいぜいが、ちょっと珍しい女性冒険者、くらいのつもりでいたんだけど。
「で、最初の質問なんだが……。お前さんは、人間のふりをしたエルフか?」
エルフ? 俺が?
エルフというのは、ファンタジー種族のひとつで、種族的な特性を説明すると、魔法が得意・やせ型・森が得意・容姿が整っている(ことが多い)、といった感じ。ちなみに耳がとんがっている。
「エルフだとしてもこちらから何か言うつもりはないが、エルフと王国とはあまり良い関係じゃない。お前さんがどういう考えでやってきたかは知らないが、ギルドは一切関知しない」
黙っているのを肯定ととらえたのか、ギルドマスターが追加の説明をしだした。
エルフと王国――というか人間国家――との確執は、ありきたりなものだ。つまり、奴隷だ。容姿や魔法の能力に優れるエルフは、母体としてとても優秀だった。
『提案。カバーストーリー「魔法の使えないエルフ」』
『なるほど。ギルドマスターの勘違いを利用するわけか』
俺の正体を調べられると、王都に突然現れたことに行きつく。それがすぐに勇者召喚につながることはないと思うが、シンゲン・シオノなる謎の人物が行方不明になったことと合わされば、俺に都合の悪い考えに発展する可能性もある。
そこで、ギルドマスターの勘違いを利用してエルフと紐づけさせることで、勇者召喚から目をそらす。回答がすでに用意されているなら、別の回答を探すなんてことは、よほどのことが無い限りしないだろう。
『よし。それでいこう。魔法が使えず放逐されたってことで、明言は避けて勘違いを助長する』
『了承』
「まず、私に何かが起こったとしても、エルフが何かを言ってくることはないでしょう」
「そうか」
エルフじゃないので当たり前だ。嘘は言っていない。
「ただの人間として、特別扱いせずにいてもらえれば十分です」
「ギルドの認識としては、ルシルはただの人間で、であるならば、特別扱いする理由もない」
にっこりと笑い合えば、この話は終わり。バイオロイドだけど、ただの人間扱いしてね♪という俺のお願いを、ギルド側が快く了承してくれたと。俺の認識ではそうなった。
重ねて言うが嘘は言っていない。嘘を言わないことと、正直であることは必ずしもイコールではない。
『学習意欲が10%向上しました』
おい。
「ここからはただの人間のルシルに提案なんだが、戦闘力試験を受けるつもりはないか? 力のあるやつを低ランクで遊ばせておくのは効率が悪い。これは一般に行われている措置だ」
「確かに規則には書かれていましたが、それには推薦状が必要なのでは?」
「良く知ってるな。必要なのは戦闘力に関する推薦状だけで良い。俺はなんとなくお前さんには力があると思っているから推薦状を出してもいい」
要は、エルフならさっさと高ランクに行って活動してくれってことだ。戦闘力試験を受けて合格すれば、すぐにDランクになれる。
思い出したくはないが、元クラスメイトが王都のギルドでDランクになってたあの制度。そういえばあのときの受付のお姉さん()はどうなったんだろうか。勝手にDランクにして、あとで怒られてるだろうな。
「どうだ。受けてみるか?」
正直、迷っている。戦闘力自体は基準を満たしているのは当然なんだけど、問題はちゃんと手加減できるのかってこと。
失敗してもぐちゃぐちゃになるのが魔物なら、それほど気負わずにチャレンジできるけど、同じ気持ちのまま人間相手にするのはちょっと無理だ。
『提案、通常出力での戦闘』
『あ、なるほど』
戦闘なら戦闘時出力やろ。という気持ちで今までやってきたが、ただの試験なら通常出力でやっても良いか。ナイスアイデアだシオン。
「受けようと思います」
「そうかそうか。すぐにやるか? エルフ仕込みの魔法が見られるかもな」
「すぐにで大丈夫です。あと私は魔法が使えません」
「え?」
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