第20話 ギルドマスターが呼んでいる、ですか?

 朝、目が覚めて、男性のアレの存在を感じないことが、こんなにも不安になるとは思わなかった。


 パンツをめくって確認してもやっぱりない。


『身体機能の更新は完了しました。使用方法を説明します』


 基本的にアレは収納したままになる。使用するときだけ外に出てくる。外に出す感覚は、表現しづらいが、腹筋するときに力を入れる感覚に近い。


 戻すときは、力を抜けばスルッと戻っていく。消えていくアレを見ていると、なんとも物悲しい気持ちになる。


『収納状態を基本としない場合、不意の遭遇に対処できません』


 そりゃあそうだ。そうなんだけど、男として悲しい気持ちになる。


 ひとしきりベッドの上でアレとの別離を悲しんで、薬草採取に行くことにした。


 ケルブには東西南北にそれぞれ門があり、薬草採取の定番は、北の森だ。門から連峰まで道が切り開かれていて、比較的安全に採取ができる。


 安全に採取できるということは、それだけ採取されているということでもあり、森の浅い場所では薬草が見つけにくいということでもある。


『少し奥まで進むか』


 しっかりと髪をポニーテールにまとめて、シオンへ提案した。目に映る薬草を示すマーカーは、王都近くの森と比べて明らかに少ない。


『了承。注意、魔物が出現する可能性があります』


『魔物か。ゴブリンで鍛えた成果を発揮するチャンスだな』


 王都からダンジョン都市に来るまで、魔物と出会う機会はなかった。街道なんだから安全に越したことはないんだけど、戦闘の練習という意味では残念だ。


 いつでも短剣を引き抜けるように準備しながら森を進む。奥へ行くほど木々が密集し、頭上を葉が覆うことで下草が減り、むしろ歩きやすくなった。


『魔物の痕跡をハイライト』


 その代わり、魔物の危険性が増し、地面にはハイライトされた痕跡が多数ある。


『どんな種類の魔物か分かるか?』


『ウルフやイノシシのような四足歩行です』


『ゴブリンはいないのか?』


『ゴブリンのものと思われる痕跡はありません』


 それは残念。四足歩行の魔物との訓練も多少はやっているが、一番(手加減が)得意なのは、やはり経験の多いゴブリンだ。


 しかし、仮想の魔物とは異なり、現実の魔物は倒すと利益が得られる。それを考えると、ゴブリンを倒して得られる利益はゼロに等しい。肉も皮にも使い道がない。


 一方で、ウルフやイノシシのような魔物では、肉は食べられるし、皮もなめして使える。納品クエストは受けていないが、ギルドに売却することはできる。


『警戒だけしておいて、出会ったら倒すでいいか。まずは薬草を集めるぞ』


『了承』



 15時ころになり、薬草採取を切り上げた。あまり遅くなると冒険者ギルドが混雑するので、できるだけ避けたい。


 薬草はクエスト5回分の250株が集まった。奥の方では薬草の群生地がいくつかあり、これなら明日以降も安定的に納品ができるだろう。


 夕方前にはギルドで納品手続きを済ませ、宿へと戻った。


 なお、シャワーを浴びに共用のお風呂場へ行き、アレがないのを忘れていたことをお伝えしておく。やっぱりシオンは正しかったようだ。



 朝から森へ行き、夕方前にはギルドへと納品する生活を続けること5日。クエスト完了数は25回。あと5回のクエスト完了で合計30回となり、Eランクへと昇格できる。そうしたら、いよいよダンジョンだ。


 と、そんなとき、受付のお姉さん――正しく綺麗なお姉さんだ――に声をかけられた。


「ギルドマスターが呼んでいる、ですか?」


『なんかやらかしたか?』


『推定。男女の痴情のもつれ』


 シオンは何かあるとそれだな。痴情のもつれが好きなのか?


 今回は痴情のもつれが皆無とは言えないのが難しいところだ。何度かギルド内でパーティーを組まないかと声をかけられていて、声をかけてきたのは漏れなく男性で、控えめに言って目が腐っていた。


 あれらが求めていたのは、一緒に活動をする仲間ではなく、便利な物だろう。当然ながらお断りさせていただいた。


『でも基本的にギルドってのは、個人の活動に口を出したりしないよな』


『肯定。ギルドが冒険者へ強制できるのは、危機的状況への強制クエストのみです』


 これは、ギルドの総則にもしっかりと記載されている。王都のギルドでしっかりと読んだので間違いない。


『そうすると呼び出される理由が分からないが……。まあ顔を見ておくのも良いか』


『了承。ギルドマスターの容姿を表示します』


『違う違う。会ってみるってこと。顔は消しておいて』


『了承』


「分かりました、お会いします」


 脳内でシオンとのやり取りをすませ、お姉さんに会うことを伝えた。


「ありがとうございます。ご案内いたしますね」


「はい。お願いします」

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