第18話 へー。俺って美人なんだな

 ダンジョン中央都市ケルブは、小高い丘の上に位置している都市で、高く堅牢な防壁と相まって、見る者の心に頼もしさと畏怖を感じさせる。


 その防壁であるが、周囲を人類の生存圏で囲まれていて、なおかつ国境からの距離もある都市としては、ずいぶん過剰に思える。


 それもそのはずで、この防壁の存在意義とは、外からの脅威に対するものではなく、内からの脅威に対するものだからだ。


 ケルブは防壁内に4つのダンジョンを擁している。そのダンジョン内から現れる魔物を抑え込むため、この防壁は築かれた。


 また、そもそもこの丘自体も人造のもので、都市北部の連峰がケルブ周辺だけ低くなっているのは、山々を削ってこの丘を作ったからだ、なんて伝説もある。


『否定。その伝説はこの世界の技術では実行不可能です』


 シオンには否定されてしまったが、それを信じている人もいる。


 実際、この丘によってダンジョンが半ば埋もれるような形になり、管理がしやすくなっているのも確かだ。


 人は都合が良い事が起こると、それを素直に信じることができないこともある。そうするとどこかに原因を求める。それがこの伝説だったということだろう。


「どう、ケルブについて良く知れたでしょ。俺ってばもっと詳しい話も知ってるんだよね。この続きは俺がとってる宿の部屋でしようよ。お酒もあるよ」


「ありがとうございました。続きは結構です」


 という一連の話を、入門審査の列に並んでいる間に、俺をナンパしようとしているチャラ男から聞いた。


 どうやら俺の容姿というのは、かなり整っているらしく、無駄に人目を引いてしまっている。王都ではそんなに注目されることはなかったんだけど。


『王都内で活動中、軽度のアクティブスキルを起動し、容姿の認識を阻害していました』


『え、そうなの? シオンがやってたのか?』


『否定。ルシルが自身で起動していました』


『え!?』


 詳しく聞いてみると、お城から逃げ出せてはいたものの、王国のお膝元とも言うべき王都にいたことが心理的ストレスになり、無意識に目立たないようにしていたみたいだ。


 王都から脱出したことで、その心理的ストレスから解放され、認識を阻害していたアクティブスキルも解除され、俺の容姿に注目が集まってしまった。


『へー。俺って美人なんだな』


『ルシルの容姿を美人として登録しました』


 容姿が整っているというのはメリットでありデメリットでもある。さきほどのチャラ男は素直に諦めてどこかへ行ったが、諦めずに付きまとわれたりしても面倒くさい。


『しまったな。もうちょっと平凡な顔にしておくべきだったか』


『否定。社会的地位を得る際、美人だと有利になります』


『シオン、それ絶対他人に言ったらダメだからな』


『了承』


 笑顔を見せたら露骨に態度が良くなった入門審査の担当を見ながら、俺はこの世界でも通用する真理を実感した。



 ダンジョン中央都市ケルブの中に入ってまず感じたことは、街の活気だった。王都は洗練された落ち着きがあったが、ケルブは荒々しい勢いがある。


 王都でいうと東の倉庫区の雰囲気に近い。あそこもかなり活気があった。


『ずいぶん雰囲気が違うんだな。冒険者が多いのも理由なのか』


『およそ5千人ほどの冒険者がケルブで活動しています』


『5千! ってたぶん多いんだよな?』


 具体的な数を言われてもちょっとピンとこなかった。比較対象がないからね。


『ケルブの人口は約5万人です』


『そうすると10%が冒険者なのか。そりゃあ多いな』


 10人に1人が冒険者と言われると途端に多く感じる。


『そういえば女性の冒険者ってどれくらいいるんだ?』


『女性の比率は30%ほどです』


『1,500人か。思ったよりも多いな。魔法とかスキルがあるからかな』


 素の身体能力という面では、この世界でも変わらず男女差というのはある。しかし、それを埋めて余りある性能を持った魔法やスキルというものがあるので、こと戦闘においては、男女差というのはそれほどない。


 冒険者というのは戦闘だけで構成されているのではないので、それを含めて30%という数字に落ち着いたんだろう。


 そう考えると、30%という数字はちょっと低いのかも。


『まずは冒険者ギルドへ行こう。それから宿を探して、今日は休もう』


『了承。冒険者ギルドへのルートを表示』


 笑顔で追加の串焼きを貰いながら冒険者ギルドへと向かった。

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