第17話 追跡者は、距離50メートルに2人。さらに後方50メートルに5人です

 オーバーヒートというのは正確ではないか。蓄えた電気を、文字通り『すべて』放電してしまったので、活動電位が足りず、一瞬だけ意識が途切れてしまった。


『次からは最大でも9割に制限しておいてくれ』


『了承』


 パーソナルシールドは生体電気を利用して発生させているので、こちらも一瞬途切れてしまった。その結果、指先の合成たんぱく質の一部が炭化し、黒くなってしまっている。


『他に損傷はあるか?』


『精査中。完了。指先以外の損傷はありません』


 話している間に指先の修復は終わって、元のきれいな指に戻った。


『ちょっと威力が強すぎたな』


 改めてレールガンによる破壊の結果を眺めてみると、道のわきに生えた木々が数本倒れ、地面には衝撃波の跡が残っている。


 仮想ゴブリンは実際にはそこに存在していないイメージなので、発射された弾丸は特に減衰することもなく木々に突っ込んでいって、この被害になった。


『提案、威力の調整』


『中威力と、高威力の2種類を準備しておこう』


『調整完了。試射の実施を推奨』


 中威力のものは有効射程200メートルほどで、高威力の方は600メートルくらい。どちらも有効射程ぎりぎりで直径20センチほどの木を貫通できるくらいの威力がある。


 投擲用の弾と同じくいくつか弾丸を作製し、マジックポーチに入れておいた。


『ちょっと時間を使っちゃったな。お昼までに次の町に着けるよう、少し急ごう』


『了承』



 そこからの移動は順調で、特にイベントもなく進んでいった。


 創作での異世界の街道といったら盗賊がお約束だが、王都から繋がる街道にそんなものはいない。いたとしても、俺みたいな1人旅の冒険者を襲うなんてリスクのあることはしない。


 1人でいるということは、1人で移動できる力があると考えるからだ。


 また、1人なら、考えるのは自分の命だけでいいので、逃げるのも容易い。逆に大勢でいたり、馬車を使っていたりすると、交渉の可能性が生まれたり、考え方の違いで仲間割れしたり、まあいろいろと考えることが増える。


 1人を襲ったところで実入りも見込めず、想定外の強者の可能性もあることから、1人旅は盗賊から避けられている。


『そのはずなんだけどな』


『追跡者は、距離50メートルに2人。さらに後方50メートルに5人です』


 お昼に到着した町の宿屋でお昼を食べ、町を出たんだけど、誰かにつけられている。誰かというか、十中八九盗賊なんだけど。


 盗賊というのは、どこに生息しているかというと、町の外の洞窟――なんてわけはなくて、普段は普通に町にいて、普通に働いているのがほとんど。獲物が見つかったときは、仲間を集めて町の外で盗賊業に精を出すのだ。


『狙われる理由はなんだろう』


『推定。バイオロイドの体が目的』


『いや、バイオロイドだってバレたわけじゃないから、それは違うでしょ』


 まあ別にどうしても知りたいわけじゃないのでなんでもいい。問題は、どう対処したものかということ。


『うーん、面倒くさいし逃げちゃうか』


『了承』


 身体能力を戦闘時出力まで高め、一足で10メートルを移動していく。10分ほどそのまま移動を続ければ、盗賊たちはついてこられるはずもなく、無事逃げ切ることに成功した。


 まだ人と戦う覚悟は持てていないので、逃げられるなら逃げる所存だ。


 その日の野営は、ちょっと憂鬱な気分を引きずっていて、ステーキの焼き加減もいまいちだったし、背中に感じる地面のごつごつさも気になった。


『今日は何事もなくダンジョン都市に着けるといいな』


 移動3日目、今日はダンジョン都市に到着予定だ。到着時間としてはだいたいお昼過ぎ。


 間には1つだけ町があり、ダンジョンが近くにあるということで、冒険者の数も多く、これまでの町とは違った活気が感じられる。


『いかにも冒険者って人が多いな。金属鎧は少ないのか?』


『推定。移動距離を考慮した場合、軽装が優位』


 金属鎧といったら騎士がすぐに思い浮かぶが、あれは騎乗することによって移動するため、金属鎧のデメリットである重量をある程度無視できる。


 野山にも洞窟にも入っていく冒険者としては、移動時の体力消費を考えて軽装がメインになったんだろうというのがシオンの推定だ。


『ダンジョンの中の環境も様々らしいから、重い鎧なんて着てられないか』


『肯定。提案、バイオロイドならば金属鎧も装備可能です』


『いや着ないから』


 動きを阻害する鎧なんて、邪魔以外の何物でもない。しかも鎧って手入れが面倒と聞いたこともある。邪魔に加えて手間までかかるとなれば、装備するメリットが皆無だ。


 冒険者見学を終えて町を出発し、盗賊に追われることもなく道を行くこと数時間。


 遠目に見えてきたのは、巨大な岩の塊。高い防壁に囲まれた、ダンジョン中央都市ケルブだ。

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