第16話 ちょっと考えたんだけど、遠距離攻撃手段も必要じゃないか?
テントを片付けて、移動を再開した。朝食は、屋台で買った串焼きを温め直し、パンにはさんだサンドイッチ。
昨日のステーキは、初めての料理補正で余計に美味しく感じたけど、プロの料理と比べたらやっぱり普通だった。
調理方法については、今後も継続して情報収集が必要だろう。
「よっ! うん、頭が吹き飛んでない。かなり手加減がうまくなってきたんじゃないか?」
『肯定。手加減の達成率は89%。以降は通常訓練のみを推奨』
仮想ゴブリンの顔を陥没させながら、訓練の成果を確認する。急に現れるゴブリンに対しても、余裕をもって手加減ができるようになった。
『ようやく急に現れるゴブリンとおさらばできるのか』
食事中と寝ている間は約束通りに出てこないんだけど、起きてすぐとか、テントを片付け終わった瞬間とか、あとは……、トイレのときとか! すぐさまトイレ中も禁止した。
まあそのかいあってか、突然の襲撃でも心に余裕を持てるようになった。
『ちょっと考えたんだけど、遠距離攻撃手段も必要じゃないか?』
訓練がなくなって、ただ歩くだけだと暇なので、この時間を利用して、攻撃手段について考えておきたい。というのも、現実のゴブリンってかなり臭いがひどいらしい。近付きたくない相手と戦うために、遠距離攻撃手段は必要だろう。
『了承。提案、投石』
『投石かぁ。馬鹿力で投げたら十分強いか』
かっこよさとは無縁だけど、石があればどこでも使える。石がなくても、とりあえず何かを投げれば良いか。
『ちょっと試してみるか。仮想ターゲットを頼む』
『了承』
10メートルくらい離れた位置に、見慣れたゴブリンが現れた。直径4センチくらいの手頃な石を拾い、習得した手加減を意識してごくごく軽く投擲した。
眉間から頭蓋骨を粉砕し脳内に侵入した石は、粉々になりつつ後頭部を吹き飛ばし、前から後ろまですっかり見通せる大穴を開けた。最初のパンチに比べればマシだが、まだ強かったみたいだ。
『せめて原型を留めるようにしないと、討伐証明が取れないな』
『肯定。追加のターゲットを表示』
何度か石を投げてみて分かったのは、威力を抑えるより、むしろ威力を高めた方が、損傷を少なく倒せるということ。
それに、弱めに投げるとコントロールも若干怪しくなる。だいたい誤差2センチくらい。普通に投げるなら誤差0.5センチだ。
『小さめの石を普通に投げるのが良さそうだな。ちょっと拾っておこう』
『提案、金属製の弾の作製』
『金属製ね。それは攻撃力を上げるためのものか?』
『肯定。石製の弾は硬質なターゲットに対して有効ではありません』
確かにな。じゃあ大き目のパチンコ玉みたいなのを作っておこう。材料は王都の冒険者ギルドで受けたクエストで入手した鉄がある。ざっくりと四角く切った後に角を丸めて完成。
『これも試しておこう』
金属製の弾は石よりも重く扱いやすかった。手加減もしやすい。貫通させずに攻撃できるので、周りの被害を考えずに攻撃できる。
調子に乗った俺は、どこまで遠距離の敵を狙えるか限界に挑戦した。20~30メートルくらいは余裕だったが、50メートルになるとブレが大きくなる。100メートルを超えると、攻撃としてはとてもじゃないが実用できない。
『長距離を投げるならダーツみたいな形状の方が良いか』
『肯定。尾部に安定翼を追加することで長距離での攻撃も可能です』
そこまで複雑な形状となると、素直に武器屋に頼んだ方が良さそうだ。
『弓を持ってもいいな。滑車が付いたコンパウンドボウとか、すごいかっこいいよな』
『注意。地球との繋がりを示唆するため危険です』
『くそ。それなら銃とかも軒並みダメか』
単純な弓はあるが、滑車付きのものはない。銃なんてもってのほかだ。あの特徴的な形状を目にすれば、元クラスメイトなら容易に地球との繋がりに気付ける。
コンパウンドボウくらいなら作ってもらうのもありかもしれないが、冒険者としての地位を確立するまでは我慢した方が良い。
『我慢か。銃っぽくない見た目の銃があればなぁ……。あっ』
ひとつ思いついたぞ。
『シオン、ちょっと生体電気をためておいてくれ』
『了承。チャージ開始』
金属製の弾を加工して、先のとがった弾丸のような形状にする。そして、じゃんけんのチョキにした手の人差し指と中指の根元に挟み込んだ。
『ゴブリンを』
『ターゲットの表示』
『3カウントで一気に放電する。3、2、1、放電!』
人差し指から中指へ、金属製の弾を通して蓄えられた大電力が一気に放電された。指を2本のレールとみなし、電磁気力によって弾丸は前方へと加速される。それは、ごく簡単な電磁投射砲、いわゆるレールガンだ。
パーソナルシールドによるライフリングが弾丸へ回転力を与え、飛び出した弾丸はまっすぐに飛翔する。50メートルを越え、100メートルの位置に立つゴブリンの頭部を爆散させ――、
俺はオーバーヒートでぶっ倒れた。
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