第15話 了承。中期的目的として登録します
さて、異世界に来て、初めて自分で調理したお肉はどんなお味だろうか。
「いただきます」
『注意。「いただきます」は地球との繋がりを示唆するため危険です』
あっ、はい……。気を取り直して実食。
「あむっ、もぐもぐ、ごくんっ……。ふ、普通!」
圧倒的普通。すっごく美味しい!となるわけでも、不味い……、となるわけでもなく、普通のお味。
『ソースに改良の余地あり。提案、グレービーソースの作製』
グレービーソースは肉汁を利用したソースだったはず。俺でもそれくらいは知っている。しかしそれ以外の知識はない。
『シオンは作り方を知ってるのか?』
『肯定。収集した情報の中に作製方法がありました』
おお、それはナイスだ。表示された手順通りに動くのにも慣れたもので、さっくりとソースができあがった。匂いは良く、期待が持てそうだ。
「あむっ、おっ!」
脂の甘みとバターのコク、それと赤ワインの風味が合わさって大変美味しい。
『これは美味しい。シオンには料理の才能があるのかもな』
『否定。レシピ通りに作製しただけです』
調子に乗るという機能はシオンにはないようだ。代わりに俺が調子に乗ってどんどん食べるとしよう。ソースも余すことなくパンでぬぐって食べきるぞ。
「あー美味しかった。ごちそ……、もしかしてこの挨拶もダメか?」
『肯定。「ごちそうさま」は地球との繋がりを示唆するため危険です』
『心の中だけで言っておくか……。さて、後片付けしよう』
使い終わった食器類は灰で洗うのが一般的だ。創作では良くある『クリーン』のような洗浄魔法はない。できるとしたら、水魔法でマイクロバブルを作ってそれで洗うとかになるんだろうか。
いや、それなら俺でもできるか?
フライパンに水を貯めて、人差し指を突っ込む。そして高速振動! キュイーン、という高い音を発しながら、水面が激しく波打つ。水中を伝わる衝撃波が油汚れを微細化し、フライパン表面から剥離した油汚れが浮き上がってきた。
『キャビテーションによる洗浄。いわゆる超音波洗浄です』
『なんか思ってたのと違うが、綺麗になったんなら良し』
指でやるのはちょっと目立つので、鉄の棒でも突っ込んで振動させれば、普段使いできそうだ。何かを聞かれたら、そういうマジックアイテムだと言っておけば良い。
食事を終えたら、あとは寝るだけ。
『その前に、ちょっと体を綺麗にしておくか』
代謝を調節できるバイオロイドであっても、多少は老廃物というものが出る。日本出身者としては、できれば毎日お風呂に入りたいところではあるが、街の外での野営にお風呂なんてものは当然ない。
身ぎれいにするためには、濡らした布で体を拭く程度。それでも綺麗になればさっぱりする。
『決めた。野営のときでもお風呂に入れるような方法を考える』
『了承。中期的目的として登録します』
綺麗にしてパジャマに着替えたんだけど、これも普通の野営なら肌着を変えるくらいしかしない。2、3日くらいなら肌着もそのままのことも多いとか。
無理だ。普通に考えて、服は毎日変えたいだろ。この場合の普通とは、日本で言う『普通』となる。
『そうすると、野営のときでも洗濯できる方法も考えないとな』
『了承。中期的目的として登録します』
どんどん目的が増えていくな。でも無目的に過ごすよりはずっと良いはず。
『やることもないし、もう寝るよ』
『了承。おやすみなさい』
テントに入って、ごろりと寝転がった。
『……やわらかいテント用マットも追加で』
『中期的目的として登録します』
ごつごつろした地面の感触を努めて無視した翌日。肉体的には問題はないが、精神的にはすでにちょっとげんなりしている。世間の野営している人たちは、いつもこんな苦行をしているのか。
『野営をどうするのか、ちゃんと決めないとな』
『了承。提案、開示する技術レベルについての指針を決定する』
科学に立脚したバイオロイドらしく?科学技術についての知識は、地球以上にある。
野営に関して言えば、そもそもの移動速度を上げることで野営自体を不要にしたり、移動式の住居――キャンピングカーのようなもの――を利用するなどがある。
製造設備がないため、すぐに作製することはできないが、ある程度の技術を開示して作製を手伝ってもらうことはできる。
『そうだなぁ。当面は開示するつもりはないな。ネギを背負ったカモになる気はないし』
後ろ盾がない一般人が美味しい情報を持っていたら、骨までしゃぶりつくされて終わりだ。
『冒険者ランクを上げて、そういうわずらわしいのを跳ね除けられるようになったら、解禁だな』
『了承。冒険者ランクを上げるを短期的目的に登録しました』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます