第14話 うにゅしゃろきゅあー!

『いや美味しかったな』


『肯定。学習意欲が40%向上しました』


 わお。40%上がるほど美味しかったか。ステーキは美味しかったが、情報収集は順調とは言い難い。


 いや、俺の可愛い見た目と演技によって、情報を集めることはできたんだけど、美味しさの秘密はお肉の下処理にあるらしく、購入した食材では意味がない。


 自分で獲物を捕らえ、解体までやってはじめて、美味しいステーキが食べられる。


『提案。解体技術の習得』


『それはダンジョン都市で落ち着いてからな』


 とにかく、食材は購入できたので、何か問題が起こる前に王都を出よう。王都にいると、いつ元クラスメイトと出会うか分からないので、安心できない。


『今日は通常出力で移動して、夜は野営だな』


『了承』


 王都の近くには、王都に食料を供給するための町が多くある。徒歩で移動する場合でも、1日で十分隣町へ到達できるので、本来なら野営なんてする必要はない。


 それだと野営の練習をするという目的が果たせないので、あえて町の宿屋には泊まらずに、全行程で野営をする予定だ。全行程といっても2泊3日なので2回だけ。


 ついでにステーキを焼くのも2回だけ。最初からすべて自炊にするほどの自信はない。道中の町で食べ物を買うつもりだ。


「はぁ~、良い気分だ」


 のんびりと街道を歩くと、自然の音だけが聞こえてくる。風が木々の葉を揺らし、鳥の羽ばたく音に危険を感じた小動物が甲高く鳴く。最後のはちょっと余計だ。


『仮想敵を表示』


「きゃっ!?」


 突如目の前にヒト型の魔物が現れた。緑の肌に醜悪な顔で、いわゆるゴブリンっぽい。


 そのゴブリンが粗末な短剣で切りかかってきた。


「うにゅしゃろきゅあー!」


 若干パニックになりながらも、なんとか突き出したパンチがゴブリンの顔面に突き刺さり、拡散した衝撃によってゴブリンの頭部を血煙に変えた。


「きゃー! ぺっ! ぺっ! 口に入った! ぺっ!」


『仮想敵を消去。手加減の達成率は0%。訓練の継続を推奨』


 口に入ったナニカもろとも、ゴブリンの姿が消え去った。これは、ダンジョン都市への道中で行う、戦闘訓練の一環だ。


『いきなりなんてひどいじゃないか』


『緊急時対応の訓練のため、直前での告知を行いました。以降は告知なしで行います』


 さらにひどくなった!


『せめて食事中と睡眠中はやめてくれ』


『了承』


 それにしてもリアルな仮想ゴブリンだった。殴った感触や、口に入った……、いや思い出すのはやめよう。本当は何も口に入ってないのは分かっているけど、あれはやばかった。


 手加減を覚えずに実際の戦闘になったら、正気を保てる気がしないぞ。


『今日はもう休もう。野営するには、まず薪になりそうな木を集めるんだったか』


『了承。倒木をマーク。1本で十分な量の薪を入手可能です』


 お、これは幸先がいいな。森の端に都合良く倒木が転がっていた。直径15センチほどの細い木だが、一晩だけなら十分だ。


 森から引きずり出し、さあ切るぞというところで気付いたんだけど、刃物として使えるものをナイフと短剣しか持っていない。


『失敗したなぁ。手斧か鉈みたいなものを準備しておくんだった』


『欲しい物リストに追加しました』


 しょうがないので、今回は手刀で切ることにする。下手に刃物を使うより、パーソナルシールドを張った手刀の方が切れ味が良いが、普通の冒険者に擬態するなら刃物は必須だ。


『次はテントを建てる』


『手順を表示。仮想パーツに重なるように配置してください』


 購入したテントは、中央に1本のポールを立てるワンポールテントというやつ。それに付属してタープもあるので、立てるポールは2本だけ。とっても簡単に立てられる。


『ペグを打ち込むハンマーがないじゃん』


『身体強化のスキルを所有していると偽装しているため、素手で打ち込んでください』


『ああそっか。いやでも小さいハンマーはあったら便利だと思う。あ、手斧の反対側がハンマー替わりになったりするかな』


『欲しい物リストを更新しました』


 やっぱり実際にやると課題が見えてくるな。


 バイオロイドは、自分の肉体1つでたいていのことができるから、道具を使う必要があまりない。極論すれば、冒険者をやるにしても素っ裸で十分やれる。


 しかしそれだと普通とは言い難いので、擬態するために道具の使い方をしっかり学ばないとな。


『よしできた。初めてにしては上出来じゃないか?』


『手順との差異は10%未満です』


 たぶん褒めてくれているんだろう。マットと毛布を出して、テントの準備が終わった。残るは、二重の意味で本日のメインディッシュとなるステーキだ。


『手順1。石を用いて簡易かまどを作製』


 焚き木にフライパンをかざして焼こうとした俺を遮るように、シオンが手順を表示してきた。エリアマップにはかまどに適した大きさの石がマークされているおまけ付き。


『はいはい。かまどね』


『手順2。焚き木に着火し、燃え尽きるまで放置』


 直火は温度ムラができやすい? あ、はい。


『手順3。お肉に調味料を塗布』


 塩コショウね。王都では、ちょっとお高いものの普通にコショウは手に入った。南の交易都市から輸送しているらしい。


『手順4。蓋の上にも灰を置き、両面焼き』


 これも焼きムラをなくすための工夫だ。じっくりと焼いて、中まで火が通れば完成。


『おー、美味しそうだ』


『肯定。手順との差異は10%未満です』

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