第13話 さらに心拍数の増加を検知。鎮静剤を注入します
翌日の冒険者ギルドは、表面上は元クラスメイトの呪いの影響はないように見えた。
ギルド内でばったり出会ってしまえば逃げ道がなくなってしまうので、まずどんなクエストがあるかを確認してから外へ出て、受けるクエストを決めてから改めてギルド内へ入るという対策をとった。
それほどまでにあの呪いは恐ろしい。
受注すると決めたのは、昨日と同じく薬草収集クエスト。街の外なら万が一にも元クラスメイトと出会うこともないだろうし、逃げるのも容易だ。
『エリアマップに薬草の位置をマーク』
『よし。お昼過ぎまでには終わらせよう』
ほんのりと体の出力を上げつつ、気合を入れ直した。無事に薬草を納品できれば、ひとまず呪いとはおさらばできる。
うおー、俺は薬草をとる機械だ!
『否定。機械ではなく生体機械です。ただの機械であるアンドロイドとは異なります』
なんだそのこだわりは。
うおー、俺は薬草をとる生体機械だ! これで良いですか?
『肯定』
薬草採取は順調で、お昼前には必要数を集め終わった。あとは納品だけだが、最後まで気を抜けない。
『重要マーカーの反応はあるか?』
『ギルド内、および、周囲に重要マーカーの反応はありません』
『よし、今の内だ』
まるでステルスゲームをしているときのようなドキドキ感。元クラスメイトがギルドへ来てしまえばアウトというクソゲーだ。
「おめでとうございます。規定回数のクエストを完了されましたので、Fランクへと昇格です。正式なギルドカードを発行しますので、少々お待ちください」
「はい。ありがとうございます」
『シオン、来てないよな?』
『重要マーカーの反応はありません』
ギルドカードが発行されるまでの待ち時間がとても長く感じる。
『来てないよな?』
『重要マーカーの反応はありません』
聴覚はギルドの入り口の方へ向けて、びんびんに研ぎ澄ませている。ほんのちょっとでも元クラスメイトが来る予兆があれば、即座に逃げる算段だ。
普通ならそんな怪しい行動は選択肢に入らないんだけど、呪いの影響を受ければそんなのは些事になるくらいの惨状になるはずだ。
『来てn『重要マーカーの反応はありません』お、おう』
あまりに聞きすぎたからか、シオンが俺の発言に被せてきた。悪いとは思うが、気になるものは気になるのだ。
「ルシルさん、お待たせしました」
「はい!」
来た、ギルドカード来た。これで帰れる。
Fランク冒険者になったことによる特典や注意点の説明は、登録時に規約を読破しているので必要ない。丁重に断って即座にギルドを離脱する。
『はぁー、すごいドキドキした』
『心拍数の増加。鎮静剤を注入しますか?』
すごい! 何かを注入する前にシオンが確認をとった! まさかの成長に、俺の心拍数が先ほどとは別の理由で上がっていく。
『さらに心拍数の増加を検知。鎮静剤を注入します』
あ……、はい。一気にスンとした。鎮静剤の効果ってすごいね。まだギルドから出たばかりで気を抜くには早いので、鎮静剤のおかげで落ち着けてよかった。
『でも緊急時以外は勝手に注入はしないように』
『了承』
合意が得られたところで食料品店へ向かう。目的は野営の際に使用する食材の購入だ。
ダンジョン都市へは、走れば1日で移動できるが、数日かけて移動するつもりだ。その間に、野営や戦闘――主に手加減――の練習をする。
『そういえば、シオンは料理ってできる?』
『否定。料理を実行したことはありません』
そっか。俺も家庭科の授業くらいでしかやったことはない。……まあ大丈夫か。フライパンで焼いて、調味料をかければ良いよな。それか、鍋で煮込む。
お城の図書室には、料理本なんていうものはなかったので、少ない知識で何とかするしかない。
この世界の食材は、地球のものと似通っている。品種改良の賜物か、味についてはそれなりに差があるが、地球と同じような料理は可能だ。ただし調理法を知っているものに限る。
『提案。料理店での情報収集』
『お、それは良いアイデアだな。遅めのお昼を食べながら情報収集するか』
これまで食事は、屋台での買い食いしかしていなかった。種類も、串焼きか、串焼きしたものをパンにはさんだもの。あとはデザートとして果物を少々。
レストランでの食事は楽しみだ。
『野営での調理を考慮し、ステーキを推奨』
『それって串焼きと大差ないんじゃ?』
『否定。熱源の種類、熱源との距離、食材の形状、どれも異なります』
なんか職人みたいなことを言い出したぞ。情報収集って言ったって、プロレベルまで求めてないから。家庭料理くらいでいいからね。
『了承。ステーキ店へのルートを表示』
頼んだからな? 振りじゃないからな?
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