第11話 ギルド内の人間の行動を解析。知能の低下、情動の増加、理性の減少を確認

 図らずも森を破壊してしまった俺は、すぐさまその場を離れた。逃げたとも言う。あと髪を高めの位置でポニーテールにした。


 女性のショートヘアーは珍しくもないが、俺もシオンもその選択肢はとらなかった。根本を同じくする俺たちが、ロングヘアーを辞める理由はない。


『戦闘時出力での全力移動は、しばらく封印だな』


『了承。付近に人間がいた場合、致命的な損傷を与える可能性があります』


 その後は通常出力で森の中をうろつき、最初の目的である薬草を集めた。俺に草の見分けは付かないが、シオンがマークしてくれるので簡単に集まる。


 ある程度サンプルが集まれば、成熟個体だけをマークすることも可能になり、さらに採集効率が上がった。森へ入ったのが10時頃で、お昼休憩をいれて、15時過ぎには目標の200株を集め終えた。


『それじゃあギルドへ帰るか。あんまり遅くなると、混雑するかもしれないし』


『了承。王都西門へのルートを表示』


 森からの帰りもマップがあれば迷う心配もない。そうして16時前には王都へと戻ってこれた。


『今日後やることは、宿へ帰る前にポーションを買って、それを試すくらいだな』


『肯定。道具屋で――。注意、冒険者ギルド内に重要マーカーが付与された人間を複数検知』


 お、なんだ? というか重要マーカーってなんだ? あといつの間に付けたんだ?


『召喚された場所に存在した全ての人間に、重要マーカーを付与しています』


『ということは、拉致の実行者か元クラスメイトがギルドに来てるってことか』


『肯定。音声パターンから元クラスメイトである可能性が高いです』


 会いたいか会いたくないかで言えば、積極的には会いたくない。そうは言っても、あの召喚の後でどういう情報を得たのかを知りたい気持ちもある。まあ素直に教えてくれるかは別問題だけど。


 加えて、今の姿は日本人のものじゃないから、会ってもどう話を切り出したら良いか。


『ちょっと様子見するか。どうしてギルドに来たのかも分からないし。厄介ごとかもしれない』


『了承。アクティブステルスを起動し、ギルド1階の屋根に上ることを推奨』


『了解っと』


 手加減してやんわりと地面を蹴り、屋根の上へ飛び上がった。森での環境破壊がここに生きた。あの破壊も意味があったということだな。


 なんとなく息をひそめてギルド内を伺う。聴覚を調整すると、ギルド内の音声がはっきりと聞こえてきた。元クラスメイトは4人でギルドに来ているようだ。


「おい、Fランクでしか登録できないってどういうことだよ!」


 これは元クラスメイトの声だと思う。残念ながら声から個人を特定できるほどの付き合いはない。


「先ほどから申している通り、保証人からの推薦状が無い限り、Fランクでの登録しかできません」


 こっちは受付のお姉さんの声だ。


「王城が保証人なんだぞ! 何とかするのがお前の仕事だろ!」


「私の仕事はそのようなものではありません。登録されないのならお帰りください」


「うるせえ!」


「うるさいのはお前の方だ! わめくしかできない子供は帰れ!」


「そうだそうだ、帰れ帰れ!」


 ここでギルド内の冒険者の参戦。血の気は多くとも節度があった冒険者とは思えない程ヒートアップしている。


「なんですかー。こんな時間にギルドにいるおじさんたちこそちゃんと仕事してるのー?」


 煽る元クラスメイト2。冒険者の名誉のために言っておくと、クエスト完了報告を日中にすることなんて良くあるし、情報収集でギルドに来ることもある。


「なんだ、喧嘩売ってんのか?」


「雑魚にはそう聞こえちゃった?」


 さらに煽る元クラスメイト3。何をもって雑魚と判断したかは謎だ。数日前まで日本にいた高校生と、冒険者として活動してきた荒くれもの、どう考えても後者の方が強いでしょ。それとも、拉致された時に得た魔法やスキルによほど自身があるのか。


「皆うるさい……。冒険者なら力を示すべき……」


 物騒なことを言い出した元クラスメイト4は、いきなり冒険者に切りかかった。


『ええ……、ドン引きなんだけど』


 そこからはもう大惨事だ。切った張ったの大騒ぎで、最終的に元クラスメイトが冒険者たちを沈めて、Dランク冒険者として登録された。


「さすがです。私の権限でDランク冒険者として登録いたします」


 掌を返した受付のお姉さんの言葉には嘘は感じられない。心の底からそう思っている。


 元クラスメイトたちは、登録料も払わずにギルドを出ていった。倒れている冒険者たちは当然放置だ。


『いくらなんでもおかしくないか?』


 元クラスメイトたちは、少なくとも日本では普通に生活していただろう。それが異世界にきて抑圧されていた欲望が開放されるのはある程度分かるけど、これはちょっと度を越している。


 さらには、周りの冒険者まで冷静さを失ったように騒ぎに加担している。まともな人間の行動とは思えない。


『肯定。ギルド内の人間の行動を解析。知能の低下、情動の増加、理性の減少を確認』


『それって、バカになってるってこと?』


『肯定』


 え、何それ、怖っ。


 元クラスメイトが去った後のギルド内は、困惑が支配していた。今になって、何故あのような騒ぎを起こした理由が分からなくなっていたのだ。


 元々ギルド内は、俺が役所だと感じたくらい整然としていた。当然だ。冒険者がギルド内で騒ぐメリットなんて欠片もなく、デメリットは大量にある。騒ぐ奴はバカだ。


 元クラスメイトの行動はそのバカで、釣られるように周りもバカになった。


『それってさ、元クラスメイトのせいでバカになったってことか? もうそれは呪いじゃん』


『検証不足により不明です』


『いや検証するにも近づかないといけないでしょ。俺やシオンにまで影響があったらまずい。あれは呪いで、元クラスメイトには絶対に近づかないようにしよう』


『了承。元クラスメイトを呪いとして登録。優先行動に呪い回避プロトコルを設定しました』

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