第10話 視界に大量の赤いマークが現れて、一気に不自然になってしまった
翌日、冒険者(見習い)生活2日目。
朝一でのクエスト争奪戦には参加せず、昨日と同じく9時頃に冒険者ギルドへと向かった。
今日の目標は4つのクエストを完了させること。そうすれば、合計クエスト完了数は7つになり、明日3つ完了すれば晴れて見習いを卒業し、Fランク冒険者だ。
『よし、速度重視だ』
『了承。シミュレーションを実行。完了。提案、常設の薬草収集クエストを4回』
常設クエストとは、その名の通り常設されているクエストだ。通常、クエストとは、依頼者が適宜出すものだが、常設クエストは常に出しっぱなしのクエストである。
薬草収集クエストであれば、冒険者ギルドが依頼者で、一定数の薬草を納めることでクエスト完了となる。
常設クエストであっても、見習い卒業のためのクエスト完了回数にカウントされるため、大量の薬草があれば一気に見習い卒業もできなくはない。
『薬草ね。1クエストで50株集めて5千円くらいか。うーん、報酬がしょぼい』
4回分だと200株だ。栽培している野菜ならともかく、森に分け入って探すとなると結構大変そう。それでも、都度クエスト受注や完了手続きをするよりは、物を集めるだけで良い収集クエストをやる方が早いという判断だ。
『薬草は、西門から防壁外へ出た先にある森に自生しています』
ご丁寧に、薬草の画像付きでシオンが情報を表示してくれた。見た目は『草』って感じ。草の特徴とか詳しくないから感想とか求められても困る。草は草だ。
ちなみに、名前は『薬草』。シオン並みに名付けが下手なわけじゃなく、国ができるよりも昔から薬草として利用されてきたので、単に『薬草』と呼ばれている。
薬草の利用方法としては、そのままでも消炎鎮痛作用があり、煎じて服用したり患部へ貼り付けたりして使用するほか、ポーションへの加工も行われている。
『ポーションか。不思議な薬だな』
『肯定。魔力の検知に成功していないため、現時点で検証は不可能です』
ポーションとは、傷を治療する水薬の一種で、創作でおなじみの回復ポーションみたいなものだ。
体内の魔力に作用し傷を治すと考えられており、魔力がどんなものか理解できていない俺たちにとっては、まさにファンタジーの権化のようなお薬。
『傷が即座に治るって、俺の体にも効果があるのかな?』
『試験の実施を推奨』
『そうだな。今日のクエストが終わったら、試してみるか』
そう決めて、西門から防壁の外へ出た。見習い冒険者であっても、登録した冒険者ギルドがある街では、出入りに支障はない。
これが別の街への移動となると、身分証としての効力はなくなって、入門する際に取り調べを受けたり、追加で税金を払ったりと色々面倒なことが増える。
『そういえば、異世界で初の街の外だな。うーん、自然がいっぱいで気持ち良いな』
『肯定。エリアマップを更新しました。視界内の薬草、および、生育の可能性の高い地点をマーク』
初めての異世界の自然を味わっていたら、視界に大量の赤いマークが現れて、一気に不自然になってしまった。シオンには、もっと情緒を学習させた方が良いかも。
まあ良いや。大量のマークがあるってことは、大量の薬草が自生しているってことだ。これなら簡単に4回分の薬草が集まるかも。
と思ったが、そう簡単にはいかなかった。
マークされた薬草の内、ほとんどは未成熟のものだった。森の端にあたる場所なので、成熟したものはすでに取りつくされた後なのかもしれない。
『森の奥への移動を推奨』
『了解。体の慣らしも兼ねて、行ってみよう』
バイオロイドの性能は、通常状態で普通の人の2~5倍くらい。戦闘時出力だと10倍くらいで、緊急時は最大20倍くらいまでいける。
これは破格の性能なんだけど、身体強化スキルを極めた人も大体このくらいの身体能力を有している。つまり、バイオロイド=身体強化スキルを極めた人、という感じだ。
その性能を特に意識せずとも使いこなるのがバイオロイドのすごいところで、森の中で足場の悪い状況でも何の問題もなく行動できている。
『戦闘時出力も試してみよう』
『了承。付近に生物はいません。戦闘時出力』
調子に乗った俺は、戦闘時出力も試してみることにした。建前としては、森の中での戦闘訓練をしてみるという理由がある。
『よっ!』
脚部の人工筋肉が蓄えられた力を開放し、パーソナルシールドを延長して強化した地面を蹴り砕く。続く2歩目は、木を避けるためにほぼ真横へと体の向きを変えさせ、反動で地面が爆発したように飛び散った。
ジグザグと移動する度、土が飛び散り、ショットガンめいた威力で周囲の植物を傷つけている。
また、暴れる強化ワイヤー製の髪の毛は、たまに毛先が音速を突破して破裂音を響かせながら木々を切り裂き、余計に森を破壊している。
『髪をまとめることを推奨』
『いやそれどころの問題じゃないだろ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます