第9話 どちらが上かを教え込めば容易に撫でることが可能です
「ポチ、お座り」
「ガウッ!」
「Good boy !」
結局、シオンに言われるがまま犬(魔物)のお散歩クエストへとやってきた。
犬(魔物)は、シャドウウルフ(犬ですらなかった!)という種類の魔物で、体高1.5メートルほどの真っ黒な見た目をしている。
生まれたばかりの仔犬の時から飼育していて、主人にはとてもなついているが、その主人がお城へ缶詰になっているらしく、やんちゃばかりする犬に困った家族がクエストを出した、というのが事の次第だ。
当初は丁寧に接する俺に対してなめくさった態度をしていたが、それにキレた俺が1発ヘッドロックをかましたら態度が豹変した。
今ではすっかりお利口な犬だ。
『確かに楽なクエストだ』
『肯定。犬は社会性の強い動物です。どちらが上かを教え込めば容易に撫でることが可能です』
犬じゃなくてウルフだったけどな。
しっかりと躾けをしたことで、追加報酬までもらえてしまった。簡単なだけでなく、儲けも良いなんて、選んだシオンはナイスだ。
お昼前にクエストは終わり、調子に乗った俺はさらにクエストを受けることにした。
『またシオンが選んでくれないか?』
『了承。提案、倉庫内の整理クエスト』
今度のクエストは、倉庫内の不用品をゴミ捨て場に運ぶというもの。バイオロイドの怪力があれば、簡単そうなクエストだが、やはり報酬はしょっぱい。
クエストの受注を済ませ、お昼ご飯を食べてから依頼主の元へ向かった。
場所は、王都東の倉庫区だ。ここは、王都の東を流れる大河を利用した、水運の玄関口となっていて、人や物が大量に行き交い、王都の発展具合を如実に表している。
クエストを受けたと依頼主に伝えれば、露骨に心配そうな顔をされたが、重そうな木箱を片手で持ち上げたらニコニコ顔に変わった。やっぱりパワーが一番。
「ここの中身を全部、南門そばのゴミ捨て場へ運んでくれるか」
「分かりました」
「終わったら、また俺のところへ報告しに来てくれ。倉庫を確認したら完了証を渡すから」
「はい」
依頼主が去ったあと、倉庫の中を改めて見回す。倉庫の大きさは、幅15メートル、奥行き20メートルくらいの中くらいのサイズ。廃棄予定のゴミは中央にまとめて置かれている。
大部分は破損した木箱のようなもので、辛うじて箱型を保った箱の中には、割れた皿やコップ、ひしゃげた鍋、よくわからない棒など、とにかくいろいろなものが突っ込まれている。
『これは結構大変なクエストじゃないか?』
『否定。可燃物は圧縮し焼却。不燃物は希少元素を回収後、圧縮し運搬することで容易に遂行できます』
『圧縮たって、俺の両手じゃ何回やらないとダメか分かんないぞ』
『シミュレーション実行。完了。推定。パーソナルシールドを最大展開した場合、175回』
あれ、1回10秒かかるとしても、30分以下? 2倍かかったとしても1時間だ。これは簡単なのでは?
一番状態の良かった木箱だけを残し、他のゴミを両手でぐっぐっすること40分。全てのゴミの圧縮が終了した。ついでに金属と希少元素もそれなりに確保できたので、体の材料にもしばらく困らなさそうだ。
『あとは木箱に入れて運べば終わりだな。いやー簡単だった。さすがシオン』
金銭的な報酬はしょっぱいが、副産物を手に入れられたのはプラスだ。そういう意味では、このクエストも美味しいクエストだったと言えるだろう。
「よいしょっと」
ゴミを入れた箱を持ち上げると、底が抜けて木箱の側面だけが持ち上がった。
『推定。重量過多』
『?』
『圧縮しても重量は変化しません。ゴミの総重量は約800キログラムです。木製の箱では強度不足です』
もっと早く教えて欲しかった。
と言っても、対処は簡単で、木製で耐えられないなら金属製で箱を作れば良い。ゴミから抽出して確保しておいた鉄を使って、少しふちが高くなったお盆のようなものを作った。
全てを一度には運べなかったけど、3往復もすれば全てのゴミを運ぶことができた。
『最後にちょっと失敗したけど、楽にクリアできたな』
『肯定。さらにクエストの実行を推奨』
バイオロイドの体は疲労とは無縁だ。もちろんエネルギーは必要になるけど、屋台で簡単に補給できる。
2日目にして5回目の訪問となる屋台のおじさんから串焼きを購入した。なんだかちょっと変な顔をされたけど、大食いキャラとして納得してほしい。
『次はどれにする?』
『提案、倉庫内の整理クエスト2』
『もう1個あるのかよ』
そっちのクエストも同じ様に無事完了した。木箱を補強して、底が抜けるような事態にはならなかったことを補足しておく。
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