第8話 冒険者ランクとして、Aランクの上位にSランクが設定されているのは不自然です

「こんにちは、本日はどのようなご用件でしょうか」


 受付のお姉さん()の対応はいかにも事務的で、この面から見ても役所的な雰囲気を感じる。


「冒険者の登録をしたいのですが、どういう手続きが必要ですか?」


「こちらの登録申請用紙に記入の上、登録料をお支払いいただければ登録いたします」


 事前の情報通りだな。登録料は日本円にすると5千円くらいの金額だ。


「冒険者としての規則を教えていただけますか? できれば書面で」


「はい。こちらが規則となります」


 机の下から即座に書類が出てきた。おおー、お姉さんの対応といい、冒険者ギルドへの信頼感が上がっていく。


「ここで確認しても良いでしょうか?」


「はい。もちろんかまいません」


 俺は説明書や約款などをきちんと読むタイプだ。もちろん冒険者ギルドの規則もしっかり読ませてもらう。


 種族:人間として不自然にならない程度の速度で読んでいく。お城の図書室で情報収集した時とは違い、ちゃんと理解しながら読む。


 もし不明な部分があれば、しっかりと解消しておかないといけないからね。


『シオンもおかしな部分がないか注意して見ておいてくれ』


『了承』


 5ページほどの、そこそこ細かい規則を読み終わった。


 ざっくり要約すると、冒険者ギルドは精一杯クエストの事前調査をしますよ。冒険者は精一杯クエストの達成を目指しましょう。クエストを失敗したら違約金を支払います。犯罪はダメです。


 まあこんな感じ。


 細かく話すと、命令権の所在や、自衛の権利、ギルドへの監査要求などいろいろあるが、今はあまり関係ない。


『特におかしな点は無かったな』


『疑義。冒険者ランクとして、Aランクの上位にSランクが設定されているのは不自然です』


 いや、それはそういうものなんだ。意味が分からないのは、正直俺も同じだけど、そういうものだと納得してくれ。


『了承。学習意欲が20%低下しました』


 ああっ! 名付けで上がった学習意欲が、変なランク付け規則のせいで元に戻っちゃった! おのれ冒険者ギルド。


 まあ気にしていても仕方ない。シオンの学習意欲は、結構どうでも良いことで上がったり下がったりしそうな気がするので、その内また上がるだろう。


 Sランク以外に疑義は無いようなので、規則の確認は終わりにして登録申請用紙を埋めていく。


 用紙には、名前・出身国・得意武器・所有魔法やスキルといった個人情報を記入する欄と、識字チェックと算数の問題が書かれていた。


 全て埋めて、登録料と一緒にお姉さんへ提出した。


 所有魔法とスキルについては、実際は『なし』だが、『身体強化』スキルを持っていることにしておいた。バイオロイドは力持ちなので、違和感はないはず。むしろ、異常な怪力を見せても、スキルの効果なのねと納得してくれるだろう。


「ルシルさんですね。読み書きと計算問題は……、全問正解です。ギルドカードを作製いたしますので、しばらくお待ちください」


 用紙をなんらかのマジックアイテムに挿入すると、ピーピーガーガー音を立てながら、用紙が吸い込まれていった。


 こんなところも役所を思いだすな。


「お待たせいたしました」


 そうして渡されたのは、ペラペラな1枚の紙。でかでかと『見習い』と書かれている。はい。見習い冒険者です。


 最低ランクであるFランクの、更に下の見習いは、10回クエストを完了させることではじめてFランク冒険者になれる。


 こんな面倒なことになっているのは、俺に保証人がいないから。保証人がいれば、最初からFランクとして登録できる。


 と、言うことをお姉さんが説明してくれた。いつの世も、信用の無い個人には厳しいものだ。


「受注可能なクエストは、あちらのFランク専用掲示板に掲載されています。他の掲示板のクエストは受注できませんのでお気をつけください」


「わかりました」


 今日は登録だけでなく、クエストも受注する予定だった。登録を終えて受付を離れた後、掲示板を眺めてみる。


『うーん。しょっぱい報酬のクエストしかないな』


『肯定。良いクエストは朝早くに受注されてしまった可能性が高いです』


 朝一の争奪戦というやつか。自分もその中に参加するのは少し抵抗がある。きっと特売セールのような凄まじい争いが繰り広げられているんだろう。


『しょうがない。報酬は抜きにして、簡単そうなやつを受けてみようか』


『了承。シミュレーションを実行。完了。提案、犬の散歩クエスト』


 そんな雑用みたいなクエストもあるのか。どれどれ……、犬は犬でも犬(魔物)じゃねぇか。

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