第6話 個人的理由により、ダンジョン都市への移動を決定
道具屋を後にし、次に向かうのは武具屋だ。
専門店ではなく、初心者向けの簡単な武器と防具が売っているお店で、短剣と最低限の防具――革製の胸当てと膝当て――を購入した。
『買いたかったものはこれで全部か?』
『肯定。宿に戻り、武具の調整を推奨』
『オッケー』
宿へ戻る途中、武具の調整に備えて、少し多めに食べ物を確保した。これからエネルギーをいっぱい使う予定だ。
『さて、何から始めるか』
『提案。浸炭による武器の強化』
『分かった。細かい調整はシオンの方で頼む』
『了承』
バイオロイドの基本機能として、分子操作というものがある。原子も操作できるので、原子操作というのが正確かもしれないが、分子操作という。
少しもったいなかったが、お城から拝借してきた男物の服を分解し元素として貯蔵している。これを使って、初心者用の武器「鉄の短剣」を強化する。
『刃を両手で挟み込むように把持(はじ)してください』
『こうかな?』
『肯定。表面の酸化層を除去、浸炭を行います』
体表を覆うパーソナルシールドを利用して、刃の表面を高温高圧にし手のひらから炭素を供給し浸炭――炭素を拡散させ金属表面を硬化する処理――を行う。
赤熱した刃に触れているのに全く熱くないのはちょっと不思議な感じだ。
『浸炭を完了。焼き入れを行います』
ジュワーという音と共に、赤熱した刃が一気に鈍色に戻った。
『終わったか?』
『否定。焼きなまし工程のため、そのままの体勢を2時間維持してください』
2時間!? 2時間合掌し続けないといけないの? それはちょっと辛いぞ。
『上肢の動作を無効化。これで意識せずとも体勢の維持が可能です』
おっ、ホントだ。どんなに動き回っても、両手は合掌を維持している。正直ちょっと気持ち悪いが、これなら2時間も余裕だな。だけど、ただボーっとしているのは暇だ。
『そうだ。王都を出るってのは決めたけど、どこに向かうかは決めてなかったな。何か案はあるか?』
『提案。南の交易都市へ移動する。西のダンジョン都市へ移動する。東の開拓地に移動する。それぞれのメリット、デメリットを表示します』
南の交易都市は、海に面した都市で、王都からは河をくだって比較的簡単に移動できる。交易都市と言うだけあって物資は豊富だ。新鮮な魚も手に入る。
ただし、冒険者の仕事としては護衛が主で、新人で信用のない冒険者が稼ごうと思うと少し厳しい。冒険者的には中堅クラスになってから行くとちょうど良さそうだ。
西のダンジョン都市は、王都の北に広がる連峰に沿ってずっと西に行ったところにある。馬車で移動する場合は3日ほど。馬車の移動速度は1日60kmくらいなので、約180kmだな。走れば1日で移動できる。
この都市は、大小様々なダンジョンを擁しており、冒険者としての仕事に事欠かない。また、冒険者をサポートする体制も整っており、武器や防具、マジックアイテムなどを入手するにも良い。
最後の東の開拓地は、王都から最も離れた位置にあり、馬車で移動するにも7日はかかる。人類の生存圏の端っこで、日夜魔物との生存競争を繰り広げる場でもある。
そうした環境であるので、開拓に成功した場合の功績はバカでかい。超ハイリスク、超ハイリターン。そんな感じで、一発当ててやろうという冒険者が結構いるらしい。
『こうして考えてみると、ダンジョン都市一択じゃないか? いや決してダンジョンに行ってみたいなんて個人的な理由じゃない。客観的にみて、ダンジョン都市一択でしょ。重ねて言うが個人的な理由じゃない』
『了承。個人的理由により、ダンジョン都市への移動を決定』
いや違うって言ったよね? なんか釈然としないが行き先はダンジョン都市で決定だ。シオンにお願いして詳しい情報を表示してもらう。
『ほう。ダンジョンってのは、地球で創作されていたものにかなり近いな』
『類似性の原因は検証不能』
ダンジョンってこういうものだよな~、と頭に思い浮かべてもらえれば、だいたいは合ってる。
ダンジョンの周りには冒険者向けの宿や商店などが立ち、大きなものは街となる。その中で最大のものが、一般にダンジョン都市と呼ばれる、『ダンジョン中央都市ケルブ』だ。
ケルブの周囲には、難易度の異なる4つのダンジョンがあり、それぞれ、初級者用・中級者用・上級者用・最上級者用と言われている。ひよっこからベテランまで幅広い冒険者を受け入れられる環境が整っているため、『ダンジョン中央都市』とまで言われるほどに巨大になったのだ。
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