第5話 優先度の低いマジックアイテムを多数検知

 宿を出た俺は、シオンのナビに従って道具屋へ行く――前に食事のために屋台へ寄っていた。


 購入したのは、何かの肉の串焼き。ドロリとした赤茶色のソースが香ばしく薫り、脂がガツンとくるなかなかのお味。


『んぐっ、かなりいける。何の肉か分からないけど』


『推定。イノシシ肉』


「おじさん、これは何の肉なの?」


「おう、これかい? これはフォレストディアーっていう魔物の肉さ。脂がのっててうまいだろ、嬢ちゃん?」


「とっても美味しいです」


「そうだろそうだろ、わははは」


 ディアーってことは鹿肉だな。


『情報をアップデート。イノシシをフォレストディアーとして登録しました』


 いやそれは違うだろ。フォレストディアーという魔物を見たことないけど違うだろ。一旦アップデートは保留にしておこう、な?


『情報のアップデートを保留しました』


 よしよし。


 お腹も膨れたし、改めて道具屋へと向かう。


 王都は山を背にした王城を中心に、半円状に広がっている。山が北、半円が南側だ。


 半円の中心から、王城・貴族街・第1防壁・市民街・第2防壁という構造になっていて、目的の道具屋は、市民街の西側、商業区にある。ちなみに宿屋は南側の住宅区にある。


 南から緩やかにカーブしながら西へと向かうメインストリートを歩いていくと、そのお店が見えてきた。


 石と木でできた4階建ての建物は、周囲のお店よりも頭1つ高く、店構えもなんだかおしゃれだ。人の出入りも多く、人気であることが分かる。


「メリル総合雑貨店。ここか」


『肯定。市民街では特に品質が良く、信頼性の高い道具が購入できます』


『ほほう。ちょっと楽しみだな』


 お店の中は小さなスペースに区切られていて、スペースごとに商品の種類が分けられている。百貨店に近い感じだ。


『生活雑貨と野営道具はどこだ?』


『エリアマップを表示』


「いらっしゃいませお客様。何かお探しですか?」


「あ、はい。生活雑貨と野営のための道具を探しています」


「分かりました。どちらも2階にございますので、ご案内いたします」


「ありがとうございます」


 接客が行き届いているな。日本でも通用するレベルだ。シオンはもうエリアマップを消しても良いぞ。


『了承。エリアマップを非表示』


「失礼ですが、お客様はマジックバッグをお持ちですか?」


 マジックバッグ?


『マジックバッグとは、見かけ以上の容量を持つ鞄類の総称です』


 そんな物があるのか。ちょっと情報を出してくれ。ふむふむ。これは便利だな。


「いえ、持っていないです」


「でしたら、ぜひ1つは購入することをお勧めいたします。野営のための道具はそのままですと嵩張りますが、マジックバッグがあれば持ち運びに大変便利です」


『それなら、まずマジックバッグを見るべきか』


『肯定。店員の妨害が無ければ、最初にマジックバッグの選定を行う予定でした』


 妨害って、店員さんは良かれと思って案内してくれたんだから。あんまりひどいことを言ったらダメだぞ。


『了承』


 マジックバッグ売り場も2階にあり、様々なタイプの鞄が並んでいる。


 こうした不思議な効果を持つアイテムはマジックアイテムと呼ばれ、他にもいろいろな種類があるんだとか。


『錬金術で作製できるのか。あとでどんなものがあるか教えてくれ』


『了承。野営に役立つものは、今表示します』


『お、ありがとう』


 悩んだ末に、財布や小物用に小さなポーチを1つと、小さめのリュックサックを購入した。どちらも結構良いお値段がして、所持金の4分の1が吹っ飛んでいった。日本円換算だとざっくり30万円くらいだ。


「それでは改めて生活雑貨と野営道具をご案内いたします」


 生活雑貨と野営道具は結構被っている商品も多く、2つのスペースを往復しながら吟味をして、納得いくものを購入できた。


「お買い上げありがとうございました。またお越しください」


「ありがとうございました」


 店員さんはいっぱい売れてほくほく。俺もマジックアイテムを購入できてほくほく。さらに所持金の4分の1が吹っ飛んだが、これは初期投資ってやつだ。


『否定。優先度の低いマジックアイテムを多数検知』


 いやいや、日本育ちのひ弱っぷりを舐めたらいけない。火種のマジックアイテムがなければ、火も起こせないよ。


『否定。指先をすり合わせることで火を起こせます』


 あっ、すー……。確かにできますね。バイオロイドパワーで指パッチンすれば余裕で火を起こせますね。


 よし、冒険者登録したら、しばらくは自分の能力の把握に努めよう。


『了承』

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