第4話 この世界での目的を明確にしておこう

「さて、今度こそ本当に一息つけるな」


 今、俺がいる場所は、宿屋の一室のベッドの上。買い物を終えた後、適当な宿をとって一時休憩中だ。


 時刻はお昼過ぎなので、少し休憩したら食べ物の調達もしたい。生活雑貨を購入する必要もあるし、まだまだやることは多い。


「この世界での目的を明確にしておこう」


『了承。機密保持のため、思考対話に切り替えを推奨』


『はいはいっと』


 まずは長期的な目的だ。これは『日本への帰還方法の探索』としておく。『日本への帰還』ではない理由としては、絶対に日本へ戻ってやるというモチベーションがないから。


 ただし、『戻らない』と『戻れない』では結構違うので、帰還方法の探索はしておく。


 無いとは思うけど、クラスメイトが助けを求めてくる可能性もある。できれば自分たちで頑張っていて欲しい。


 転校してきてまだ2週間しかたっておらず、友達どころか知人もいない。クラス内では、いじめというほど露骨じゃないけど、何故か基本的に無視されていた。


『推定。男女の痴情のもつれ』


『もつれるほどの繋がりもないよ』


 初日の午前中は普通だったのに、お昼休みにトイレに行って帰ってきたら、急にクラスメイトたちがよそよそしくなった。実質数時間の関わりでもつれる痴情って何だよって感じだ。


 まあクラスメイトは割とどうでも良い。


『次は中期的な目的だ。中期って2、3年くらいか?』


『提案。資産および社会的地位の形成』


 お金と信用ということか。長期的な目的の帰還方法を探すのにも役立つ。あとは普通に生活していくためにお金は必須だ。


 ここで問題になるのは、俺が思う『普通』と、この世界での『普通』がそれなりに離れているということ。


 先進国の日本で生活していた身からすると、この世界の普通はやや物足りない。レベルで言えば、上位貴族の普通の生活が、日本での普通に相当する。


 装飾品や交際費などは省けるが、かなりの金額がかかりそうなのが容易に想像できる。


 そして大きく稼ぐには信用は必要だろう。


 よし、一旦方法は抜きにして、中期的な目的として『資産および社会的地位の形成』を設定しよう。


『最後は短期的な目的か。ひとまずこの街――王都は出た方が良いよな』


『肯定。身分証の取得のため、冒険者ギルドへの登録を推奨』


『冒険者か』


 この世界にも、ファンタジー世界(創作)の例にもれず冒険者ギルドという組織が存在している。冒険者が存在しているということは、魔物も当然存在している。


 元々は開拓者としての性質が強かった冒険者だが、人類の生存圏が拡大していく中で、希少資源の採集や護衛などの仕事が増え、現在のような冒険者ギルドとなった。


 しかしその本質は変わらず、簡単に言えば武力の外部委託先だ。


『バイオロイドとしての機能があれば、冒険者として活動し、中期的目的の達成が容易になります』


 いわゆる高位冒険者というやつは、稼ぎもデカい。なんの後ろ盾もない俺が稼ぐ方法として、数少ない真っ当な手段だろう。


『稼ぐかどうかは別として、冒険者ギルドに登録はしておいた方が良いだろう』


『肯定。武器と防具の購入を提案』


 そうだな。あとは、王都を出るとなると、野営用の道具も必要になるな。そこらへんは冒険者ギルドで道具屋を紹介してもらえないかな。


『否定。道具屋の情報は探索済みです』


 いや、冒険者割引とかあるかもしれないし。冒険者ギルドで聞いた方が早いだろ。


『道具屋へのルートを表示』


 おわっ! 視界一杯にマップを表示するんじゃない! 消しなさい! まったく。ずいぶん勝手な管理人格だ。一体誰に似たんだか。


『シンゲンを元に、女性的パーソナリティーとして作製されています』


『え? そうなの?』


『肯定。思考の根本はシンゲンと同一ですが、多様性のため、表層部を異性として設定しています』


 つまりは女性版俺、ということか。ちょっと複雑な気分。


『道具屋へのルートを再表示』


 はいはい。分かりましたよ。十分休めたし買い物に行きましょう。

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