第3話 カバーストーリー「夫からのプレゼントが気に入らなかった奥様」を展開
『結構時間を食っちゃったな』
1時間ほど情報収集に時間をかけたので、俺がいないことがバレていてもおかしくない。
ただ、いなくなったのは、『黒髪で変な服を着た男』であるので、一般メイドになっている俺が怪しまれることはないだろう。
『得られた情報により計画の修正を提案。貨幣の確保』
『そっか。無一文だったな』
俺は推定異世界召喚の被害者なので、慰謝料を貰う権利がある。一瞬で自己弁護を完了して、シオンの提案通り貨幣の確保をすることにした。
『そうは言っても、お金なんて厳重に保管されているんじゃないか?』
『換金性の高い宝飾品を検索。完了。ルートの再計算。完了』
指示されたルートは、男性用の服が置いてある部屋と同じ部屋へ続くものだった。そこは、いわゆる貸衣装部屋のようなところで、服の他にもいろいろと置いてある。
『こりゃあ良い。バレない程度に頂いて行こう』
せっせとスカートの中のポーチへ詰め込んで、気分は大怪盗だ。ついでに小金もそこらの部屋から頂いた。
この世界の貨幣は、金や銀を使った硬貨がメインだ。一部商取引には証券のようなものが使われるが、それは俺には関係ない。
『よし。ステルスで脱出する』
めぼしいものを盗み終え、アクティブステルスを起動して正門から堂々と外へ出た。
『ふぅー、ようやく一息つけるな』
『否定。盗難が発覚する恐れがあります。速やかな換金を推奨』
『あー。宝飾品って地球だと確か登録とかあるんだったか。この世界でもおんなじ感じなのか?』
『否定。管理者の記憶のみの不完全なものです』
それならバレる前に売ってしまえば良さそうだ。
お城を出た先は、見るからに洗練された貴族街といった感じで、道にはゴミ1つ落ちていない。おそらくこのメインストリート周りは一等地なのだろう。
敷地を贅沢に使った邸宅が並び、たまに行くのは馬車だけ。徒歩で移動している俺はちょっと目立っている。
できるだけ気配を消しながらしばらく進むと、邸宅エリアから商業エリアっぽい雰囲気に変わってきた。ここでなら宝飾品を売却できそうだ。
『カバーストーリー「夫からのプレゼントが気に入らなかった奥様」を展開』
なんだその地獄のようなカバーストーリーは……。俺は奥様の怒りにおびえた一般メイド役ね。オッケー。
バイオロイドとしての力を遺憾なく発揮し、まずは表情をいじる。悲しげで、おどおどして、なんだか手助けしたくなるような雰囲気を演出。
「こ、これを売ってこないと、奥様に、鞭で……。ううっ」
(見た目は)可愛い俺の演技に店主も気の毒に思ったのか、普通に相場で買ってくれた。女性の見た目はこういう時に便利だな。無事、かなりの量の貨幣を得て、お店を出た。
『次は、一般市民が着るような服を買いに行くか。お城の中なら良いけど、外でメイド服はちょっと目立つ』
エプロンとホワイトブリムは外しているが、一般市民に混じるには少々作りが良すぎる。これからのことを考えると、無難な服の入手は必須だ。
『了承。女性用の衣服の入手を推奨』
『あー、やっぱりしばらくは女装したままの方が安全か……』
『肯定』
元の日本人的容姿に戻るのはリスクでしかないので、しばらくは女性の姿でいた方が良い。男の恰好をするにしても、容姿はこの世界にありふれたものが良いな。
『とりあえず女性ものの服を買う。案内してくれ』
『了承。案内を開始します。ポーン♪ 400メートル直進です』
いやカーナビの真似はしなくていいから。
貴族街的なところを抜け、平民エリアのようなところに出た。貴族街の出入り口に兵士の守る検問があったが、エネルギーの溜まったアクティブステルス機能で抜けた。
バイオロイドのエネルギーは、主に食物で補給し、わずかながら日光でも補充できる。ここまで歩く間に、ほんのちょっとステルスを起動するくらいは補給できていたので助かった。
『目的地付近です』
『おっ、このお店か』
この世界の衣服は、それほど高級品というわけでもないが、さりとて安物というわけでもない。平民は基本的に古着を買い、何かのお祝い事の時に新しい服を仕立てる。
新品の既製品がずらりと並んでいて自由に購入、みたいな感じではない。
案内されたお店も古着を扱っているお店で、そうしたお店の中でも比較的状態の良いものを売っているお店のようだ。
「いらっしゃいませ~」
店員のお姉さんの声を聞き流し、女性ものの服を見繕う。自分の服さえテキトーに買う俺が、女性の服をまともに選べるはずもなく、すべてシオンにお任せだ。
普段着として、少しレースの付いたワンピースを2着とズボンを1着、寝るとき用のシンプルなワンピースを2着。
ちょっと待って、寝るときまで女装する必要はないのでは?
『否定。就寝用衣類のみ男性用の衣服を購入するのは不自然です』
うぐっ。はい、そうでございますね。浴衣みたいなものだと思うことにした。
追加で肌着を4着購入し買い物は終了。ついでに、店内の着替えスペースを借りてワンピースに着替えさせてもらった。
お店を出た後に、髪色を茶色から薄い金色に変えれば、一般メイドさんはどこにも存在しなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます