45話 一路、商国へ


 朝テントからでると不自然な土の小山ができていた。

 全てを察した俺は何も言わず片付けを済ませ朝食のためのロティを作る事にした。

 無言の圧は来ているが、知らん。

 俺は12歳でその辺りを察する能力はきっと発展途上なんだ。


 ファンの肉を投入し手早く作ったカレー擬きを煮込む。

 途中スパイス類を追加投入しそのまま煮込み続ける。

「あのぉ…あちらのものは朝食では…」

「違います」

『そんなぁ…!』

 いや、貴方がたの目の前に朝食はあるだろうが。

 ロティとファンの香草焼きが。

 ちょっと辛味を効かせているので普通に美味い。

「食べないのであ『食べますっ!』…」

 結局全員で完食した。

 尚、その後ファンの肉10頭分を消費分と言って渡されたが…多いぞ?



 そう急ぐ必要も無いのでのんびりと移動しているが…当然次の目的地である商国についてのレクチャーを受ける。


 商国は正確には『諸国商業連合』と言い、部族や集落を一つの国・町と捉え中央商国がそれらから上がってきた意見等をまとめたりする。

 売り物についても地方の者を商国の3大都市に集めて売り買いをしているらしい。

「そう言えば神子様が作られたソース、果物の甘さがしていましたが…」

 途中の休憩で雑務神官がソースについて聞いて来た。

 特に隠す事もないのでソースに入れた調味料等を列挙していった中で果物の事について話が出たが、俺の中の果物名と違う可能性があるからなぁ…

「ええ、女神からの返礼で頂いたのでそれを入れました」

「果実をソースの中に入れるという発想は全くなかったです…どのような果物ですか?」

赤林檎レビドゥンマンゴー金柔椰子です」

 おお、翻訳が掛かった!

 そして雑務神官の顔色が変わった!

「………あの、ええっと、本当にそれらを?」

「ええ」

「1個金貨3~40枚のレビドゥンと、生涯一度でも見る事ができれば幸せだという金柔椰子?」

「そうなんですか?」

 確かにマンゴーは3つだったが、赤林檎は小箱に入って送られてきたんだが…

 マンゴーはあの2つはある。

 1回のソース作りに半分は使ったな…林檎は1個使った。

 現在寝かせているソースには残りのマンゴーと林檎2個。これは暫く熟成させたいが…無理だろうなぁ。

「ではあのソース…神金貨数十枚の価値が…!」

 顔面蒼白でカタカタと震えている雑務神官。

 その様子を見て「どうした?」と他の雑務神官達が集まってきた。

 そしてその雑務神官から語られた言葉によって感情が伝播し、恐慌状態となった。

 あれだけ美味い代物だ。そりゃあ美味いに決まっている。

 ただそれでも熟成が足りないからなぁ…

 なんて事を考えていたら他の神官達がやってきて…更に混乱が拡大した。

「神子様ッ!種は…種は!」

「使用時に消えましたよ」

「おおおおおおっっ…やはり、神の果物っ!」

 膝を突き慟哭しているルイ。

 そんなレベルの代物なのか…アレ。

「そこまでの物なんですか?」

 失意体前屈をしているルイに問うと、立ち直ってはいないものの「はい」と応えて居住まいを正す。

 地べたに正座している辺り、全然立ち直っていないが。

「レビドゥンは病に効く万能の果物であり、効能は食欲不振や栄養失調の改善、体力の回復です」

「病に効くという効能は?」

「実際はありませんが、これら3つの効能によって基本快方に向かいますので」

 そりゃそうだ。

「ただ、時期と生える場所が分からないので幻の果実と言われています」

「まあ、病気の時の林檎は…うん」

「そしてもう一つの金柔椰子ですが…過去にはそれで戦争が起きたほどの貴重な果実です」

「果物一つで戦争…」

 馬鹿馬鹿しいと言いたいが、食べ物の恨みは恐ろしい…羊斟の恨みなんて言葉もあるしなぁ。

「金柔椰子に関しては10年に一度、世界のどこかで1つだけできます。効能は蘇生と完全復活、そして若返りです。一口食べれば1年は若返ると言われているほどですが…実際の所、4切れで1年という記録が残っています」

「調べた人がいるのか…いやその前にどうやって分かったんだ…」

「成人になった者と成人1年目の者に食べさせたそうです。すると一口目で成人になったばかりの者が成人補正を失い、4口目で成人から1年経った者の成人補正が失われたとの事です」

 いやそれ一口大の大きさとか分からんし…4切れと4口が微妙に…

「価値的にはどうなんですか?」

「……果実の重さと神金貨の重さで取引される場合や、神金貨300枚~500枚という値がつけられた事もあります」

「ふーん…高いのかどうかピンときませんね」

 そんな事を言いながら林檎を一口大に切り、皿に並べる。勿論弟が大好きな兎さんカットだ。ここに弟は居ないが。

「あの、神子様?それは…レビドゥンでは────」

「ええ。それです。女神様が返礼としてくださったので。流石に返礼品を売り払うのはどうかと思いますので…皆さん一つずつどうぞ」

 あっという間に列ができ、皿から取る際には俺と女神に感謝の言葉を述べてから取るという訳の分からない儀式になっていた。

 地球の品種改良された物と比べても遜色ない美味しさだが…うん。

 旬の物含めやはり値段の差はあるんだなぁ…


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