44話 崩壊、全力全壊


 夜中にファンの襲撃があったらしいが、拠点結界を破る事はできずお肉として回収されたようだ。

 朝、昨日の事を改めて全体で話し合う。

 どうやら突入した際、ダンジョン内部にモンスターがおらず内部構造が若干変わっていた違和感があったものの前回の件もあり先へ先へと進んでいったら奴らが待ち構えていたという事らしい。

 奴等は周辺を壊しながら追ってきて外で戦う事にしたらしいが…どうやら外に釣り出さないと詰む程度の広さだったらしい。

 あちらはある程度エモノを振り回せて相討ちはしない程度の位置取りが出来るとか言うレベルか?

 いやそれかなり広いよな?

 兎も角、あれだけのモノを排出したのだから他のモンスターはいないだろうと言う意見が一致したので再度討伐へと向かって行った。

 そう。

 今回も俺はお留守番。

 ファン(鉄砲玉)に狙われているって事は、ミュージカとコミュニケーション能力があるという事だろう。

 それとも察してグループ単位で襲ってきているだけか?

 そこら辺どうなのかと聞いてみると、

「察しているだけかと思われます。本当に襲われたという証拠があった場合、集団で襲いかかってくるので」

 今も集団といえば集団なんだがなぁ…

「護衛シカがついているレベルなので確実に数百はファンがいますので気を付ける必要がありますね。まあ、それもこの森を抜ければ問題は無いかと思われます」

「あのミュージカが神子様の後を付いてこない限りファン達は追いかけてこないので大丈夫ですよ~」

 ルイとアスハロアはそう言ってくれるが、脳内お花畑のシカだからなぁ…心が折れても一晩で忘れていそうで怖い。

「ファンの解体は良いんですけど、小さいのは食べる部分が少ないですからねぇ…」

「通常個体が2頭だけか…まあ、それだけあれば結構な肉が取れる」

「暫く肉には困りませんね~」

「売るほどあるとはこの事か…」

 いやマジで。また突進してきた。


 結局ダンジョン攻略部隊が帰ってくるまでの間に16頭のファンが結界に頭を打ち付けて倒れ、捕獲された。

「商国で売りましょう!」

 俺がタレを作っているときに戻って来たラナがこの惨状を見てそう叫んだ。

「私達では消費しきれませんし、保管していても腐ってしまいます!」

 ───うん。甘みも感じるが、まだ荒いな。熟成が足りないのは仕方が無い。

 女神へのミュージカ肉献上の際に対価として金網と各種調味料を追加で貰ったために焼き肉のタレを自前で作ってみたが…

 セットされた金網にスライスしたファンのもも肉を4枚並べる。

 1枚目には小皿で漬けにしたもので、2枚目はタレを軽く塗ったもの。

 3枚目は食べる前にタレをつける予定で、4枚目はそのまま焼いて食べる。

「…うん。弾力が凄いな。そのままだと少し臭みがあるか…塩胡椒かな。直前につけると…あまり上手く絡まないか。

 軽く塗るとある程度染み込むけど…二度塗りが良いかな。コイツは漬けが良いかも知れないなぁ」

「神子様!?何か暴力的な良い香りがするのですが!?」

「売るにしても安く買い叩かれると困るのでちょっとセットで売れないかと試行錯誤しています」

 水飴もそこそこ入れたからなぁ…このタレを売りに出したくは無いか。

「…お蔵入りだな」

『待 っ て !?』

 神官達全員に止められた。

「食べさせてください!そんな香りをさせたままというのはあまりにも、あまりにも無慈悲です!」

 滂沱の涙を流すアマネ。

「…では、出立前の昼食という事で食べましょうか」

 白金達も俺の周辺をグルグルと飛びまわっているし…女神から要請があったんだろうなぁ…

 少し大きめの鍋に薄くスライスしたファン肉をぶち込み、作ったタレを全て入れ追加のワインと水飴等々調味料を追加して雑務神官に軽く混ぜるよう指示。

 俺は毎日の日課となっているロティづくりを頑張る事にした。


「美味い…うまぁ…」

「甘辛ですけど、タレと肉の味が絡み合って…」

「肉、足りない気がするんですが…追加しますか?切りますよ?」

「タレ作るのが大変なのでこれで我慢してください」

「鍋の側面に突いているタレを余す事無く肉で取るのです!そして焼くのです!」

「うわぁ…」

 カレーバーサーカーだけではなく焼き肉バーサーカーになった。

 考えてみたらそうだよな。

 貴重な調味料に様々な物をブレンドするって、駄目になった場合のダメージが大きすぎるんだよなぁ…

 成功例を知っているから俺は普通に混ぜてはいるが、知らない人からしたら狂気の沙汰か。

 ……待て。此奴らどんだけ食ってる?

 自分の分を確保しながら肉をスライスしている?

 待て待て。

「売る分は?」

「無いですねぇ」

「…マジか…マジだ」

 彼等には早すぎた代物だったか…中毒者になっているぞこれ。

 と、視界の隅でファンが結界に激突した。

「ッシャア!肉が増えた!」

「捌きます!」

「タレは!?タレはまだ少しありますか!?」

「少しだけ残っています!」

「あああっ!血抜きの時間がもどかしいっ!」

「………ファン、全部倒す」

 ……これ、ファンを絶滅させる勢いで狩るんじゃ無いか?

 暴走しかけている全員を落ち着かせ、生態系の激変は免れた。

 追加で更に二十数頭は狩ったが。

 今回の焼き肉で俺がストックしている以外のシカ肉が消えた。

 20名でおよそ20頭分…兎大の肉はアバウト2~2.5キロ。通常個体は20キロ程度だから…それでも80キロ近く食べている、だと?

 売ろうといっていたラナも狩りの話をしている。

 今夜まではここに居るとの結論になったので早々にテントに入り、結界を張ってソース作りをしておく事にしよう。

 甘口ソースと辛口ソース。

 ソースの魔力は恐ろしい…神職者すら狂戦士に…………元からか。うん。

 これ作り終わったら周辺をしっかり浄化して寝よう。


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