39話 現着、遺跡ダンジョン


 遺跡ダンジョンに到着したが…予想と違いギョッとした。

「ダンジョンが、露出している?」

「ええ。このダンジョンは中央にある城跡から中に入る形ですが、地上部分までがダンジョンとなっているようで…」

 アスハロアが少し言いにくそうに説明する。

 いや、これ見て分からないって事はない。

 甲冑石像やら黒曜石っぽい光沢の豹やらがウロウロしていて分からない方がおかしいと想う。

「頑強さで言えばウォーム・ガルよりも朽ちた騎士の方が頑強ですし、攻撃力も上ですが…速度は半分くらいです」

 半分…普通に無茶苦茶早いという事が分かった。

 甲冑石像なのに動きはかなりスムーズだ。

「あちらの凝石の黒豹フガ・バサルは防御力は全くありませんが触れただけで革鎧すら切れますし、早さもウォーム・ガルと同等です」

 セットで出てこられたら厄介…というセット確定モンスターか。

 今も範囲内をウロウロしているし。

「質問だが、触れたら切れるのか?」

 アマネが不思議そうに首をかしげる。

「はい。あの体毛は全て薄い刃になっているようで、脆い代わりに強力な切れ味となっています。鋼の剣も切断された記録もあります」

 よく分からんが色々アウトなモンスターだろ。

 モンスター達は俺らがダンジョン勢力圏内に入っていないためか見えていないようにウロウロしている。

「この状態から攻撃をした場合、どうなるんですか?」

「襲いかかってきます。が、範囲外までは出て来ませんし、バサルはすぐに身を隠します」

 成る程。頑強な騎士を倒せるだけの飛び道具が無いと言う訳か?

「それこそドラゴン案件では?」

「入口と内部構造が厄介でして…炎も水も奥の奥までは届かなかったようです」

 ……残っているダンジョンは全て厄介なダンジョンという事か…

 そんなに厄介な所ならば人が…と言いたいところだが、表層でこれだ。かなり厄介という事だろう。

「……」

 もう一人の法国聖女、イムネがバサルをジッと見つめ、

 ドンッ

 取り出した鉄球のような物を殴り飛ばし、バサルを仕留めた。

「ぇえ?」

 アスハロアの間の抜けた声が響く。

 バサルが倒された事に反応した朽ちた騎士に対しては拳による滅多打ちで動きを止め、少しずつダメージを蓄積させていく。

 最後にはその鎧も耐えきれずに崩壊し、討伐されてしまった。

「…うん。イケルイケル」

 攻撃こそ最大の防御…って、これは絶対意味が違う…



 そのあと周辺から騎士やバサルがわんさか集まってきたので回収出来る物を回収して野営地まで撤退した。

「表層部は主にあの2種ですが、他にもヒョウモンダコという飛行モンスターがいますので注意してください」

 豹紋凧と言う事か?

「気を付けるとは?」

「空中から毒霧を散布してきます」

 確かに気を付けないと洒落にならないな。

「しかもその毒は腐食性の強い毒で、霧は粘度があります」

 霧なのに粘度があるってなんだ?

「因みにどれくらいの高さを飛んでいるのですか?」

「5メルシュから7メルシュ程度です。強い風が吹くと飛ばされるので後方支援の方に見つけ次第飛ばして貰うのが最善です」

 高度はともかく、まんま凧じゃねーか。

「地上への攻撃はその毒霧だけですか?」

「急降下してきて絡みついたり噛み付く事もありますが、地面に落ちると死にますので避けてください」

 いやどんなモンスターだそれは。

「毒の強さは?」

「すぐに解毒しなければ死にます。噛まれたら解毒より蘇生の方が早いです」

 猛毒過ぎるだろそれは。

「でもメッチャ良いアイテムを偶に落とすんですよねぇ…」

「ですねぇ…アレ一つで富豪になれますからねぇ」

 ほほう?

「それはどんなアイテムですか?」

「解毒の極みという直径4センチ程度の宝玉です。それを食べれば毒物や人体に害を及ぼすものをカットします」

「カット?いや、それよりも害を及ぼす物全般?」

「はい。魅了や暗示の類さえもカットです。無効化でない理由はお酒や薬などある程度それが結果的に人体のためになる物であるのなら有効なので」

 麻酔とかも適度に効くのなら良いんだが…この世界なら問題は無いが、ちょっとケースバイケースだな。

 と、気付いた。

 法国陣全員の眼がギラついている事を。

「全員で見廻りを!」

「了解!」

「ではちょっと偵察に行ってきます!」

 ラナがビシッと敬礼をし、武装神官達を集め始めた。

「ラナ様!1個5イストルですよ!」

「地上班と上空班1セットで動きなさい!」

「了解!」

「レアアイテムなのでそこまで手に入らないですし、あの2体が手強いのですが…」

 一丸となって遺跡に突撃した法国の連中にアスハロアが申し訳なさげに声を掛けるが、その声は届かない。

「ああなっては止められない」

 ルイが雑務神官達とため息交じりにやってきた。

「ルイは参加しないんですか?」

「4組8名も行けば十分でしょう…」

「本当に、お金、ないんですね」

「各国の孤児院への支援は金銭がメインですから仕方ありませんよ。神金貨5枚あればどれだけの孤児達が助かるか…」

 なんだろう、この守銭奴と言い切れない善良守銭奴…

 苦笑するルイを俺とアスハロア達全員同じ目で見ていたと思う。


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