38話 迎撃、当方に迎撃の用意あり


「召喚士は始末した!あとはそいつだけだ!」

 ラナの台詞に全員が気合を入れ直す。

「僅かだが、弱くなった?」

 なんだか気配が先ほどよりも僅かだが弱くなった気がする。

 まあ依然として洒落にならない頑強さと攻撃力を有しているようだが…

 と、狼はこちらを一瞬見ると攻撃的な笑みを浮かべた。

「弱者と見抜いたか」

 軽度だが既に数人の怪我人が出ている。

 腕の半分が千切れるレベルの怪我は軽度とは言わないと俺は心から思うが、コイツら秒で治してそのまま挑むんだよ…

「神子様!」

 ラナが動こうとするが先ほどとは逆に俺が片手で制す。

「弱者には弱者の戦い方がある。対獣であれば───」

 俺は拳大の結界壁を眼前に2つ形成し迎え撃つ。

「神子様!その程度の結界壁では!」

 狼は2度のフェイントを経て俺の頸を噛み切らんと斜め前から飛び掛かってきた。

「残念ながら見えている」

 俺は空間固定していた結界壁をその口に捩じ込み、

「拡大、そして回転」

 ギャッ、という悲鳴と共に顎が裂け、狼は空中で不自然に回転して───グシャリと体が地面に落ちた。

 なんてことはない。

 拳大の結界壁二つは歯車の形をしており、狼に食わせた側は歯車の歯幅中心を窪ませており、もう一方は歯幅中心を尖らせている。

 それらを広げて噛み合わせ、切ったというだけの話だ。

 事前に白金達と打ち合わせをしていたからできた芸当だが…やってみるもんだな。

「…えっと、あのぅ…神子様?」

 ラナが声を振るわせながら俺を呼ぶ。

「ん?どうかしましたか?」

「いえ、今のは、何を…」

「対中型以上生物用の攻防一体型結界です」

「ウォーム・ガルがグルンって…」

「神子様全然強いどころか瞬殺ぅ…」

 何故かドン引きしている部隊全員。

 いや、俺が貴方がたの強さにドン引きですが?

 あっ、タチカは目を輝かせてる。

「さすがは神子様です!」

 いやぁ、君にだけは引かれて欲しかった…



「…成程、確かに固定して回転させれば…しかし使用用途がかなり限定されますね」

 狼を手早く解体し、次の目的地へと向かう車中で説明をしている。

 本当は安全のため結界壁を3つ出したかったが、俺の習熟度と現在の能力ではこれが限界だった。

 正確に言えば普通の結界壁ならできるが、細かなギミック等のついたものは2つが限界…と言った方が良いか。

「ほぼ完全な形で毛皮が残ったので良い価格で売れますよ!」

 毛皮…しまった!そうか、毛皮として売ったり剥製として売れるのか!

「もうひとつの方法で仕留めれば首も残ったのに…抜かった!」

 きっと金貨数枚分のロスだぞ!?

「いやあの、十分過ぎるくらいですからね?」

 落ち込む俺をアスハロアが慰める。

「しかし頭が残っていたほうが高いだろ?」

「普通に1部隊が相手するような化け物を一撃で倒しているのですから!」

「いや、アマネ達だけでも倒せたと思うんですけど…」

「あの人たちは別格ですよ…法国の人たちは全員化け物ですか…」

 うわ、アスハロアが落ち込んだ。

「まあ、仕方ないとしか言いようがないです。あれはうちの特殊部隊クラスです。本人達は聖女のつもりかも知れませんが、聖女期間が過ぎれば間違いなく我々の部署へ推薦します」

 あっ、やっぱりそれほどのレベルなんだ…

 時間の都合上、食事を摂らずに今日の野営地まで一気に走らせ到着した。


「で、結局俺が作るハメになると」

 ロティ&カレー祭りだった。

 良いんだけどさ。大量に作り置きをしようとしても消えてくのはちょっとなぁ…

「これが仏教的な無の教えか?」

 いや絶対違うと思うが。

 ただの大食漢の群れなだけだな。

 あと女神様+α分。

「どうしてもうまくできないんですが…」

「どうしてすぐに焦げるんですか!?」

 そしてここにロティをうまく作れない不器用な雑務神官が2人。

「コイツらには絶対カレーを作らせるわけにはいかないな」

「「そんなっ!?」」

 大体は問題ないカレーができるとは思うが、かなり偏った味のカレーになるだろうな…十中八九。

「3食カレーの夢が…」

「年間カレーの夢が…」

 カレー狂過ぎないか?

 食事を終えて一息吐く。

「あの召喚士というのは何だったんですか?」

「アレは時折現れては他大陸のモンスターを解き放つ迷惑な輩です」

 そこそこな頻度はあると…

「しかも厄介なのは一定以上の強さを持ったモンスターを召喚し、力を与えるんですよねぇ」

 無茶苦茶厄介な敵だった!

「更に召喚士を見つけなければそれを倒してももう一体呼ぶという非常に厄介な性質を持っていまして…最大3体までは呼びます」

 あれ?ということはもしかして?

「それを警戒して倒さなかったということですか?」

「まあ、そうなんですけど…逸れの可能性もあるので何とも言えないんですよねぇ」

 ため息を吐くアスハロア。

「うちでは全て倒して召喚士を探すって手段が主ですね」

 ラナの台詞に皇法国のメンバーがギョッとした顔をした。

 やはり脳筋だったか…善良な脳筋は恐ろしい…

 いつもニコニコ顔のアスハロアですら顔を引き攣らせているのを見ながら他人事のように思う俺だった。




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