37話 始末、そしてまた襲撃


 小鳥の囀りと朝の涼しげな風が心地良い。

 ……眠れなかった俺のちょっとささくれ立った精神を癒やしてくれる。

 昨夜は一晩中各所で悲鳴と泣きわめく声が上がり続けていた。

 そして明け方には嗚咽しか聞こえなくなったので1~2時間ほど眠らせて貰った。

「いやぁ…前回のような輩ではなくて助かりました!どうやら帝国の諜報員達と雇われ盗賊団だったようですね」

 随分とお行儀の良い盗賊団だな…

「あと、此奴らを商国へ引き渡すので出立は少しばかりお待ちください」

「というと、その盗賊団は商国を荒らしていた連中と?」

「ええ。序でに帝国のダンジョン保護指令について問い合わせを少し…」

 昏い笑みを浮かべる雑務神官に全て任せる。

「神子様、昨日は余り眠れなかったのでは?」

「…ええ。1~2時間は眠ったので問題はありませんが「それはいけません!少し私と仮眠を取りましょう!」ええっと?」

「であれば護衛官である私も」

 アマネが添い寝を希望し、ラナがそれに乗っかってきた。

「いや、流石に女性との同衾は…」

「あのっ…では、僕と一緒に…」

 小さく挙手をしてそう言ってきたのは法国側聖者のタチカだった。

 少年、というか俺より小柄で女顔の見た目少女なため聖女3人…護衛軍人2人と聖女1人?と一瞬思ったのは秘密だ。

「あのっ、神子様ともっと仲良くなりたくてっ」

 顔を真っ赤にしながらアウアウ言っているが…まあ、うん。

 騙されてはいけない。

 こいつもバーサーカーで拷問官だ。

 昨夜の襲撃で帝国の諜報員を白状させたのはこのタチカだった。

 彼が諜報員を見極め、拷問し、自害を止め、そして心を折った。

 恐らく拷問のことを聞けば彼等はその事を思い出し失禁するだろう。

 あれ、うちの弟が見たらトラウマになっていただろうなぁ…妹は、平気だろうな。

 あれはあの歳でも戦国時代にタイムスリップしても生き残れる。

 香椎の爺様、アレを女呂布にでもする気なんだろうか…

 さて、思考を現実に戻そう。

「……女性との同衾はマズいが、まあ、タチカは」

「騙されてはいけません。タチカは神子様に触れたくて仕方がないのです」

「?触れるくらいは別に問題無いですが?」

「「えっ?」」

「女性と同衾した場合、私が一番恐れているのは性交渉というよりも私の精神鍛錬が甘く迷惑を掛けてしまわないかという自分の不甲斐なさに対するものですので」

 …三人が目をあわせ、頷いた。

「神子様。ご心配には及びません。休憩が第一ですので今回はタチカと私が警護を務めさせていただきます」

 ラナがそう言って深々と頭を下げた。



 2~3時間ほど寝ただろうか。

 目を覚ますとタチカが正面から幸せそうに抱きついたまま眠っていた。

 ああ、弟を思い出す…って危ない。

 コイツは成人しているんだ。

 どう見てもショートヘアの可愛らしい女の子。だが聖人男性…成人男性だ。

「お目覚めでしょうか」

「ええ。ラナ、おはようございます」

「おはようございます、神子様。部隊が戻って来たようなのでそろそろ──タチカ」

 ラナの声にタチカが目を覚まし俺からソッと離れた。

「おはようございます神子様」

 ふにゃりと柔らかい笑みを浮かべ、声を掛けてくるタチカに俺も「おはようございます」と返す。

 テントから出るとほぼ片付けられており、なんだか申し訳ない気持ちななった。

「神子様!奴等を渡して序でに奴等のアジトから物資を奪ってきました!」

 うん?どういう事だ?

 首をかしげる俺に他の雑務神官が説明をしてくれた。

 どうやら奴等のアジトの1つがこの森の奥にあったようで、1人がそれを白状したので回収したという事だった。

「金目の物は余りありませんでしたが、食料等がありましたので回収しておきましたよ!これで1週間分はあります!」

 嬉しそうな雑務神官。

 それは良かったと返すべきなのか?と一瞬思ったが、

「彼等からのお詫びのお布施ですかね」

 そう返すと嬉しそうに頷き俺のテントの収納を始めた。

「では、次のダンジョンへと向かいます」

 そう言って部隊が動き出したその時だった。

 ガサガサガサッ

 凄い勢いで奥から大型のオオカミが飛び出してきた。

戦風の狼ウォーム・ガルッ!?北の魔獣が何故ここに!」

 はじめに飛びかかられた武装神官は咄嗟に結界壁を張りダメージを避けたが、狼はその結界壁を蹴って再び態勢を整える。

「狼、にしては大きいですね…」

 およそ3メートルの巨体だ、森の中とはいえどうしたって分かるはずだが…

 これ、他にも居ないか?

 そう思いながら周辺に気を配る。

「ラッ」

 俺はラナに声を掛ける前にラナが片手で俺を制した。

 分かっているようだが、相手を警戒して動かない。

 ただ、手には輪っかと糸が握られていた。

 武装神官3名とイムネが狼と戦っている。

 というかあの狼、イムネの高速の突きを躱したり当たってもそこまでダメージが入っていない?いや化け物か!?…魔獣なんて化け物以外の何ものでも無いか。

 そんな事を思いながら眺めていると、ラナが輪っかを投げた。

 それは俺が気配を探っていた所に放たれ、輪っかがそれの後ろを横切り、糸がピンと張ったと思うとそれの頸に巻き付いた。

「神の名において、その邪悪を滅し給え」

 ラナの言葉と共に糸が光り、それの頸はコロリと落ちた。


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