21話 望郷、早く帰りたいので多少の無理も…


 目が覚めた。

 体を起こすものの、部屋の中は暗くまだ夜中のようだった。

「……」

 自分の体内時計が狂っているのが何となく分かる。

 気が急いている。

 疲れもあるだろうが、早く帰りたいという気持ちがジワジワと溢れ出ている。

 その余裕のなさは致命的なミスを起こす。

 いくら自身にそう言い聞かせても感情というものは厄介で焦燥感は溢れ出る。

 友紀も佑那もまだ幼い。俺が居なくなって困っていないか…

 あのドグサレ母と流され父が助けるとは思えない。近所の方々は助けてくれるとは思うが…

「落ち着け、落ち着け俺」

 どうせ眠れないのなら座禅を組んで体と心を整えよう。

 俺は不安を払うように朝まで座禅を組んだ。


 朝、全員に平身低頭された。何故?

「いえ、あのっ…神子様を我々のくだらない利益のために無理に働かせてしまったことをお詫びしたく…」

「廃材の有効活用は下らないことではないかと。それに配合含め実験結果はこの2日で出たわけですからあとは皆さんでできるはずです。それに皇法国の世界における立ち位置も多少は理解出来たので無駄ではなかったと」

「………は。神子様のご恩情、ありがたく…」

 エキメウスがそう言って深々と頭を下げた。

 いや本当に、どうした?

 慇懃無礼の無礼寄りなエキメウスとは思えない状態に首をかしげるもそんな事よりも次の準備とばかりに身支度を調える。

「こちらの問題事は片付いてということで宜しいでしょうか」

「いえ…もう一つ問題がございまして……それが、竜の次代族長候補が神子様にお会いしたいと」

 いや何故?

「どこから情報が漏れたのでしょうか」

「それが…大型魔獣、いえ超越種は神から直接啓示を受けているようでして…現族長が神子様に対するお告げを受け、それを確認するためにこちらへ来たと」

 ああ、なんだろう。

 このパターンは凄く嫌な予感がする。

 神に対してメッセージを送っておかないとロクデモナイ事になりそうだ。

 特に次代族長という香ばしいワードもあった。

 アレだろ?自分の力を誇示したいがために神子を倒すとか神をどうにかしてやるみたいなちょっとヤンキー入った学生みたいなこと言い始めるんだろ?

 こちとら最弱なんですが?一桁年齢の女児と同等に近い数値の人間に対して…まあ、実際そうなるとは限らないか。

 とりあえず神には緊急連絡を…黒紫さんが直接行くと。お願いします。

 掌から黒紫の球が浮き上がり、消えた。

 坐禅をしていたためかかなり密度が増していたような…うん。誤差だ誤差。

「では、会う事にしましょうか」

 何かあったときは白金さん、バリアの方お願いします。

 白金さんは上下に揺れ、俺の中へと入った。

 万全とは言えないだろうが、最善は尽くした。

 レポート以外で超越種達の行動がわかるというのは良い事でしょうし、神様ウォッチの最中に何が起きるのか…不安で一杯だ。



 大聖堂内の謁見の間へと向かう。

 入らなくても分かる。

 とんでもない何かが中にいるという事が。

「竜って人の姿になる事ができるのですか?」

「はい。高位の竜であれば人の姿になることもできます。その場合、その者の素質によって左右されるとの事ですが」

 エキメウスではなくラナが教えてくれた。

 成程…

「ちなみに聞いた話だと今回来た次代族長候補はオスの成竜で力よりも知恵を求める者だとか」

「…失礼ですが、どこ情報ですか?」

ここ皇法国情報ですが?」

 エキメウスが顔を引き攣らせながらラナに問い、ラナがシレッと答える。

 どうやら一部のものしか知らない情報らしい。

 ラナの諜報力は凄いなぁ…と思いつつどんどん増していく圧に息を吐く。

 そしていよいよ大扉の前に立ち、その扉が開かれた。

 謁見の間に居るのは教皇と側近2名、護衛2名そして───

「そちが神子でおじゃるか?体のつくりは成年前、力は…何がどうしてそんな女児並みの力なのじゃ?これでは生きていくことすらできぬでおじゃろうに」

「……」

 麻呂とアマゾネス姉さんがいた。

 いやどんな組み合わせだよ。

 公家、と言いたくない。まさに麻呂といった小太りの男。

 そしてアマゾネス姉さんの方は…どうやら彼女が威圧的な力を発していたようで俺を見た瞬間に目を見開き驚いた顔をしたかと思ったらその気配を引っ込めた。

 ただ、その瞬間に感じた違和感。

『儀式:針の筵』

 俺の呟きと共に俺の斜め後ろで悲鳴が上がった。

「ほう?」

 そこに居たのは黒装束の女性だった。

 ただし、その女性は結界に閉じ込められ、無数の針がピッタリとその身体に突き立てられている。

「動けば刺さりますのでお気をつけください。目や鼻の穴まで強化されているのであれば弾けるかもしれませんが…貴女が殺気を出さずとも戦意を以て来たので相応の対処をいたしました」

 俺はそれだけ言い麻呂の方をむく。

「これが竜全体の総意か?神に対し敵対すると、そう捉えても構わないか?」

「麻呂が動けばそこの教皇は一瞬で死ぬが?」

「俺には一切関係がないな」

「何?」

「俺が受けたオーダーはダンジョンの殲滅と地上の情報収集でありそれは今現在もなされている。その敵対が真意がどうか、更に悪戯にそういったことをやってのけたという行為そのものがリアルタイムで神に見られていると思え」

 俺のセリフと同時に鐘の音が辺りに響き渡った。


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