03話 技能、小手先であっても致命傷


「戦場の駆け引きを個人に落とし込むわけですか…」

「確かに、相手が前に出ようとしているわけですからアシストされるとバランスを崩しますが…」

「そういった際でも手をつかまれて引かれた場合反射的に後ろに下がりますので、こうすれば…」

「「おおっ、後ろに」」


 まあ、慣れてきて見切れるのは良いんだが、流石に攻撃力が高すぎる。

 掠っただけで掌が傷だらけなんだが…普通の服なのにここまでって事は俺は基本的に掴み関連ではなく武器術が良いんだろうな。

 しかし、香椎の翁が見たら狂喜乱舞しかねない光景だ。

 ただ、神官達がどのくらいのレベルなのかが分からない。

 基準が欲しい───

「神子様。掴むのとは違うのですか?」

「掴むとすれば相応の反応が起きますのでそれに合わせれば…と言うよりもこんな事態になることはあるのですか?」

「あまり無いですね」

「そうですね。神官職の場合は拘束されたりした躊躇いなく自爆しますから」

 ………なんか、恐ろしいこと言ってるんだが?

「まあ、神官や神職者のような蘇生可能職が居ない限り余程のことがないと単独では行いませんよ?」

「この戦い方は討種や竜種の方々に有効だと思われます。彼等は腕や肋骨の1,2本くらいでは抑えきれませんからね」

 違う、そうじゃない。そうじゃないんだ。

 命、軽すぎない?

「自爆ですか」

「ええ。ご覧になりますか?」

 頼むからデモンストレーション感覚で自爆するとか言わないでくれ…

「いえ、結構です…ただ、どれくらいの破壊力と範囲なのでしょうか」

「通常であればこの訓練場くらいの範囲は消し飛びます。例え精霊の力を借りようとも魔封じを行っても私達は洗礼と共にこの術式を儀式の一環として行っておりますので封じることは不可能です」

 ……ここ、実は暗殺教団とかじゃないのか?

 信徒には手厚く、敵対者には死を…みたいな。

「武器等は使いますか?」

「ええ。基本は素手ですが、剣や槍、杖などをメインに使います」

 うわぁ…容赦してない…でも、

「弓や飛具の類はないのですか?」

「使う方々もいますが、矢が尽きれば終わりですよ?それに結界術を貫通する程の矢であればそれこそ攻城兵器です」

 あー…うん。そうですね。

「ああ、ただ、この島に張り巡らせている結界に関しては教会の技術の結晶ですのでドラゴンや帝国の城塞破壊兵器程度では破壊不可です」

 城壁どころか城塞破壊…あとドラゴンて…ファンタジー世界か?いや、ファンタジー世界だったな。

 世紀末世界か無間地獄かと思っていたよ。

 死んでも蘇らせて拷問とか。


 武器庫へ入り見渡すが…床含めかなり堅牢な作りだった。

「こちらが訓練場専用の武器庫となっています。全てが耐久性特化のものなので特に問題は無いかと」

 そう言われ1メートル20センチくらいの鉄棍が渡され…おっっっも!

 いや待って?何キロある?

 それよりも神官長さん普通に持って俺に渡したよな?

 体のブレがなかったぞ?

「この棍の重さはどれほどで?」

「こちらはフィルドレンド鉱で作られた八角棒で長さ1.2メルシュ(1.2メートル)程度ですので60ファッシュ(60㎏)程ですね」

 …この八角棒、60㎏あるのか。

 そっかぁ…だいたい鉄の7.5倍位の重さじゃないか?

 え?これを弾いたり受け止める?

 無理だろ普通に。

「…この八角棒は普通に打ち合いや打撃を?」

「勿論です。これと大剣を使った闘いなども行っております」

 うーわー…即死案件だな。

「因みにですが、槍はこの2~3倍の長さですが太さは同じ程度です」

 槍の重さがただの質量兵器と化している件について。

 そんなモノが振り回された日にはクラシックな攻城兵器である投石機も岩を打ち返されるんじゃないかなぁ…まあ結界があるからそれ以前の問題なんだが。

「ここにある武器の全てがそのフィルドレンド鉱で作られているのですか?」

「ええ。頑丈過ぎて扱いづらいと言う代物ですので我々神職者か竜種の方々位しか扱いません」

 それって…脳筋が過ぎるって事では?

「そこまで硬い場合は防具としても相当に有能では?」

「そこそこ稀少金属ですし、何故か他の方々はこれを使いこなせないようで…城塞の大門に使ったりしたこともあったらしいのですが、運搬や設置に莫大な金額が掛かった挙げ句、設置と同時に大門の周辺城壁が崩壊したとか」

 それはそうなるでしょ。

 馬鹿なのかな?周りが持たなかったらダメじゃん。

「ですのでその大門を法国が戴き、持ち帰り有効活用したと」

 と言うことは帝国か王国のどちらかの国がやらかしたと。そしてそれを分捕られたか、二束三文で買い叩かれたんだろうなぁ…

「法国の神官達80名が扉2枚を持ち帰ったとされています」

 莫大な運送費=脳筋80人分…

「純粋な質問なんですか、法国、皇法国人口はどれくらいで神職者の割合はどれほどですか?」

「法国は約1200名ほどで1000名が神職者です。ここは別に190名です」

「皇法国は約1600名ほどで1500名が神職者ですね。こちらには別で160名です」

 これ、各国勝ち目あるのか?

 一騎当千な神職者。しかも自爆したり復活する驚異とか救えないな。

 この神職者らが暴走しないことを祈りながら武器庫を後にした。


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