砂岩人

 西行は語り合う友を欲するあまり、人骨を集めて人を造ったと言われている。だが、それとは別に、砂岩を使って人を造ったという話もまた、各地に伝わっているのである。

 人骨を使っての人造りは失敗であった。それには心がなかった。故に、西行は以後、人を造ることはなくなったと言われている。

 だが骨で人を造ることはなくなったが、彼は諦めてはいなかった。そこで目をつけたのが、砂岩であった。彼は砂岩を削って人の形とし、秘術を尽くして人を造った。

 もちろん、元は砂岩である。骨よりも脆く、そのままにしていれば風化して、いずれは崩れてしまう。だが、人の一部を使わないということが、西行には魅力的であったようだ。

 西行は死ぬまでに何百、何千もの人を砂岩で造ったと言われている。それこそ、円空が大量の仏を造ったように、西行は砂岩で大量の人を造り、野に放ったのだ。

 道端で一人語りをしていた老人は、そこで口を噤んだ。彼の声は砂のようにザラついており、衣服も砂に塗れていた。

 自分には目もくれずに通り過ぎる人々に、老人は今でもいるぞと呟く。その口から、砂のようなものが零れ、落ちていく。

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