十七㎝の石墨
細長い棒のような石を持っている。
真黒で、ゴツゴツトしたこの石は、石墨と呼ばれている。この石を使えば、墨のように、紙に文字が書けることが名前の由来だ。
私が石墨を貰ったのは、高校生の時だった。
地学を教えてくれた先生から、もう使わないからやると言われたのだ。先生は私が入っていた地学部の顧問でもあった。遠い場所を眺めるような目つきや、雪のように白い髪から、陰では仙人と呼ばれていた。
仙人がどうして私に石墨をくれたのかは、いまでもよくわからない。けれど、あの時の私は特に何も考えずに受け取っていた。
石墨は使わないと意味がないと仙人から言われて、特に差し障りのない時には使っていた。その習慣が抜けきらず、社会人になった今でも、石墨を使い続けている。
おかしいのは、石墨がどれだけ使っても減らないことだ。三十年以上使っているが、全く減らない。二十年前から、年に一度、長さを測っているが、十七㎝のまま変化がない。
そのことを思うたびに、仙人が、桃源郷で拾ったのだと言っていた姿を思い出す。
当時は適当だなと思っていたが、今では信じてやってもいいという気分になっている。
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