かんらん石のブローチ

 近所のバザーで見かけた、緑色に輝くブローチが綺麗で、思わず足を止めた。

 かんらん石だと売主は言っていた。売り物は、その一つだけであるらしい。バザーが始まってまだ一時間も経過していないころだ。売主は、ブローチ以外のものを売る予定がなかったのかもしれない。

 二言三言話をして、買うことにした。値段も手頃だったし、何より緑が美しかった。

 買うと言った瞬間の、売主の顔が忘れられない。嬉しそうというよりもむしろ、安堵したような表情が浮かんでいたから。

 ブローチを身に着け始めるようになってから、視界の端にかんらん石が映りこむことが増えた。とても小さなかんらん石が、ヒョイと現れる。位置的に、宙に浮いているのだと思うのだが、視線をやると消えてしまう。

 試しにブローチを外してみたのだが、無駄だった。あの緑色の石が、私の視界から消えることは決してなかった。

 ブローチは何度か捨てた。だが、いつの間にか、私の部屋に戻ってきていた。

 捨てられないなら売るしかない。すでに視界の半分近くを埋め始めているかんらん石を見ながら、次のバザーの日程を確認した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る