鳴石

 以前、鉱物愛好家の友人から、「鳴石」と呼ばれるものを見せてもらったことがある。

 壺のような形をしており、振るとコロコロと何かが転がるような音がする。

 針鉄鉱と呼ばれる鉱物で、小石が集まってできている。この中に、球形の粘土などが入り込むことで、コロコロと音がするそうだ。

 友人は嬉しそうに、何度も石を鳴らしていた。話は「鳴石」から別の鉱物の話に移っていったのだが、コロコロと鳴る音だけは、いつまでも響いていた。

 友人が亡くなったのは、つい先日のことだ。通夜には出られなかったが、葬式には出た。

 一通り葬儀が終わり、そろそろお暇しようという段になって、友人の妻から一つの小箱を託された。茶色い小箱の表面には「鳴石」と印字された紙が貼られていた。

 友人の遺言で、是非受け取って欲しいと言われ、別に断ることもないので持ち帰った。

 その日の夜に小箱を開けてみると、以前に見せてもらった「鳴石」だった。

 試しに振ると、音がした。だが、それは以前に聞いたコロコロという音ではなかった。

 クツクツと笑っている声だった。亡くなった友人の笑い声にそっくりだと思った。

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